開国の父 老中・松平忠固

【806】第1話 B2 『鳥居耀蔵』≫

○市中・崋山宅
崋山宅を家宅捜索している役人。
『渡辺崋山宅』
たくさんの書物などを押収している。
N「天保10年(西暦1839年)5月14日、渡辺崋山・高野長英ら蘭学を研究する者たちが逮捕された。天保年間は江戸で蘭学が隆盛し、新知識の研究と交換をする機運が高まり、医療をもっぱらとする蘭方医とは別個に一つの潮流をなしていた。崋山自体は蘭学者ではないが、高野長英や小関三英が崋山への蘭学の知識提供者であった。この潮流は旧来の儒者・国学者たちからは蔑みをこめて「蛮社」(南蛮の学を学ぶ集団)と呼ばれ、この言論弾圧は後に『蛮社の獄』とよばれることとなる」

 

○奉行所内
押収された書物。
それら書物を読んでいる鳥居耀蔵。
報告している大草高好(38)。
鳥居「証拠はどうですかな」
大草「潜入させた間者の花井が聞いたというだけで小笠原渡航計画や大塩平八郎との関係など物的証拠はありません」
鳥居「物証なく証言だけでは罪に問いきれませぬぞ。それに、そもそも蛮学を信仰している、というだけでは罪にも問えん」
俺の方が奉行なのに、と不服そうな大草。
大草「はぁ」
鳥居「その花井とか申す者、大丈夫なのでしょうな」
大草「おそらく」
鳥居「おそらくとはなんですか、しっかりやって下さいませ。しかも、崋山に対しては予想外に無罪放免の嘆願が各所より上がってきておる。証拠を捏造までしては、つつきすぎた藪から思わぬ大蛇が出てきてこちらが呑み込まれる危険がありますぞ」
大草「・・・。分かり申した」
不満そうに出ていく大草。
再び書類に目を通す鳥居。
N「蛮社の獄を先導したのは、目付・鳥居耀蔵である。鳥居は崋山や江川英龍、高島秋帆などの蘭学信奉者を嫌悪した。それは、儒学のみを正統の学問とし他の学説を排除した幕府の文教機関・昌平黌で代々大学頭を務める林家に生まれた鳥居にとって、儒学こそ唯一無二の学問であったためであり、それに対し、崋山は林一門の門人でありながら蘭学に傾倒した上、友人の儒学者らを蘭学に多数引き入れるという、いわば裏切者であった」
一冊の本を読んでいる鳥居。
鳥居「チッ、一大名の陪臣にすぎない低い身分にありながら、幕政に意見しようなどとは・・・」
怪訝な顔。
ん?という顔になる鳥居、見る見るうちに顔が青ざめていく。
鳥居「これだ。見つけたぞ。はっはっは。これこそ言い逃れのできぬ証拠だ。息の根を止めてくれるぞ、蛮学者め。おい、誰かおるか」
バンと本を放り投げ、出ていく鳥居。
放り出された本。
表紙に『慎機論』と書いてある。
N「文教の頂点に君臨する林家という権威、それに加えて体制の番人をもって任ずる幕臣という身分、その二重の権威を誇る鳥居にとって、渡辺崋山及び蘭学者は決して許容できない存在として憎悪の対象にあったのだ」

 

 

 

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