【881】第6話 A1 『バルチック艦隊』≫
○日本海海上
はためく日の丸。
その日の丸がはためいている軍艦。
近代的戦艦の艦隊、なんと108隻にも及ぶ。
日本海軍連合艦隊の勇壮なる行軍。
『日本海・対馬沖』
そこかしこからサイレンが響き渡る。
前方より艦隊が接近してくる。
接近する艦隊にはロシア国旗。
放送「総員戦闘準備、繰り返す総員戦闘準備。敵バルチック艦隊11時方向より接近中。射程距離まで2.5海里」
○旗艦『三笠』艦橋
『日本海軍連合艦隊旗艦【三笠】艦橋』
緊迫した艦橋内。
指揮官の面々。
落ち着いた表情の中に強い決意の感じられる表情の東郷平八郎。
参謀「東郷大将閣下」
東郷「うむ」
参謀「東北東160°回頭準備並びに砲撃準備、目標敵艦隊先頭艦」
操舵士「東北東160°回頭準備並びに砲撃準備、目標敵艦隊先頭艦」
東郷、すっと右腕を上げる。
東郷「回頭!!」
腕が振り下ろされる。
急激に舵を切る操舵士。
大きく傾く船体。
しかし誰も動揺するそぶりはない。
○海上
接近するロシア艦隊を目前に、大きく回頭する連合艦隊。
艦列がT字形となりバルチック艦隊の進路遠方に立ちはだかる体制となる。
○三笠・艦橋
カッと見開かれる東郷の目。
東郷「撃てーっ」
前砲門とともに後砲門も火を噴く。
続いて2番艦、3番艦と次々に主砲が発射される。
ロシア艦隊の先頭艦に集中砲火を浴びせる。
ロシア側も応戦するが、早くも先頭艦が撃沈される。
繰り広げられる激しい戦闘。
日本が優勢のうちに展開されていく。
○久春古丹・丘陵(早朝)
『樺太・久春古丹(コルサコフ)』
濃い霧が立ち込めている。
あたりは静まり返っている。
あちこちの焚火の脇で村人数十人が沖の方を見ている。
と一人が何かを発見する。
みるみる引きつっていく顔。
村人A「お、おい」
隣の男を引っ張る。
村人B「あ、あれは・・・」
船影が三、四艘現れる。
掲げられているロシア国旗。
船には大勢のロシア兵。
鳴り響くサイレン。
しかし、ロシア兵はうなだれて元気がない。
そして霧の中から現れる2隻の艦隊。
艦隊は日本国旗が掲げられている。
多数の日の丸を掲げた上陸船が上陸してくる。
村人A「に、に、日本が勝ったようじゃ」
村人B「し、信じられん。西洋列強に東洋の国が勝つなんて」
ロシア兵たちを捕虜とする日本兵達。
海上には白旗を掲げるロシア戦艦『ノヴィーク』。
それを囲むように日本の巡洋艦『千島』と『対馬』
N「明治38年(西暦1905年)5月28日、日本海海戦においてロシアのバルチック艦隊を殲滅、コルサコフ海戦でも勝利した日本は9月4日、日露戦争講和条約を締結する。この条約においてここ久春古丹を含むサハリンの北緯50度以南は日本領となるが、日本とロシアとの領土紛争は現代に至るまで解決に至っていない」
兵士たちの様子を見ている村人A。
村人A「本当に夢のようじゃ、わしの子供の頃、そう、あれからまだ50年しかたっとらんというのに」
鼻をこすっている村人A。
南の小高い岬に要塞が見える。
丸太造の兵舎3棟と士官棟、堡塁に囲まれている。
二の物見台から見下ろされている。
○同じ海岸(50年前)
同じ岬の要塞。
『ムラヴィヨフ哨所』
指で鼻をこすっている子供、村人A。
ロシア人たちが上陸している。
それを遠巻きに見ている日本人やアイヌ人たち。
ロシア艦船が2隻、停泊している。
ロシアの国旗。
○ペトロフスク・ロシア基地
ロシア国旗。
ロシアの基地が見える。
『ペトロフスク哨所』
ムラヴィヨフがネヴェリスコイに指示している。
『東部シベリア総督ムラヴィヨフ』
ムラヴィヨフ「本年1853年4月11日、我が皇帝はサハリンの占領を決定した。これによりサハリンは我が国国土となった。本年中にサハリンの東岸あるいは西岸のできるだけ南寄りに2,3の地点を占領せよ」
ネヴェリスコイ、不満顔。
ネヴェリスコイ「・・・、それで?」
ムラヴィヨフ「なんだ?」
ネヴェリスコイ「あえて触れないわけか、都合の悪い部分は現場でなんとかしろと」
ムラヴィヨフ「・・・。サハリン南端に居住している日本人には、不安を与えてはならない。我々はあくまで外国人の侵略を防ぐためにサハリンを占領するのであって、彼らは我々の保護のもとに、安全に漁業と交易を続けることができる、と説明せよ」
ネヴェリスコイ、やはり不満顔。
ネヴェリスコイ「なぜです?なぜ日本にそれほど遠慮しているのです。サハリン全島が疑いなくロシア領であることが認められた以上、小官は南岸のアニワか久春古丹を占領すべきだと考える」
机に広げられている樺太の地図。
ムラヴィヨフ「アニワや久春古丹には日本人が住んでいる。それはレザノフやクルーゼンシテルンの報告で明らかだ」
ネヴェリスコイ、アニワ湾を指さし、机をたたきながら
ネヴェリスコイ「だからです。アニワ湾には兵士たちを収容できる宿泊施設があるのです。去年のインペラートル湾の悲惨な越冬生活をお忘れか。荒涼たるサハリンの東岸や西岸に兵士たちを放置することは兵士を死に追いやることと同義である」
ムラヴィヨフ「・・・」
ウォッカをがっと空けるムラヴィヨフ。
ムラヴィヨフ「現在、プチャーチン提督が日本と国境の協議を行っておる」
ネヴェリスコイ「ではなおさら、サハリン全島を支配しておく必要がありますな」
踵を返し、出ていくネヴェリスコイ。
ムラヴィヨフ「お、おい」
バタンとドアを閉める音。
そのドアに向かって投げられるコップ。
はげしい音と共に砕け散る。
ムラヴィヨフ「・・・」
○地図
シベリアの地図。
次々と建設されるロシア拠点が加わっていく。
N「西暦1689年にロシアと清国との間で締結されたネルチンスク条約によりロシアの極東国境はスタノヴォイ山脈となっていたが、19世紀中ごろになるとアムール川下流でのロシアの行動が活発となる。1849年アムール川河口にペトロフスク越冬所を設置、50年に40キロ上流にニコラエクスク哨所、53年にデ・カストリ湾にアレクサンドロフ哨所、キジ湖畔にマリインスク哨所、そして、北緯49度付近でインペラートル湾を発見、コンスタンチノフスク哨所を建設」
そして、サハリンの地図。
サハリン南端のアニワ、そして久春古丹。
○久春古丹海岸
ムラヴィヨフ哨所。
N「そして同年4月11日に樺太占領が決定した後、ゲンナジー・ネヴェリスコイはムラヴィヨフ東シベリア総督の命令を無視し、同年8月29日、サハリン南岸の久春古丹を軍事占拠。建設した要塞をムラヴィヨフ哨所と名付けたのだった」
艦船の向こうには陸が見える。
○北海道・宗谷岬
笠をかぶった侍三人が歩いている。
対岸の樺太が見える岬に来る。
侍「おおっ」
樺太が見えて歓声を上げる侍。
笠をあげて垣間見えた顔、堀。
後ろに村垣、武田。
堀「あれか。あれが樺太か」
村垣「ほ、堀殿、あ、あれを」
堀が指差す方向に一隻の船。
堀「異国船・・・、どこの船だ」
アイヌ人の付き人が答える。
付き人「国旗が掲揚されていないが、ロシア船だ。間違いない」
一同「・・・」
村垣「や、やはり北蝦夷はロシアに占領されているのでしょうか。久春古丹にはロシアが軍事拠点を築いているとか」
堀「好き放題航行されているではないか。こちらは砲台も何もない。指をくわえて眺めているしかないのか」
村垣「どうしましょう。わたりますか」
堀、激昂する。
堀「バカヤロー。当たり前だ。本当にロシア人に占領されているのか、確かめてやる。すぐにアニワへ渡るぞ」
一同「はい」
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