開国の父 老中・松平忠固

【882】第6話 A2 『鳳凰丸』≫

○品川・御殿山
陣幕が張られ、式典が開かれている。
中央に座っている阿部、忠優ほか老中陣。
後ろには諸侯。斉昭・慶永・宗城・斉彬の姿も見える。斉彬の脇にいるのが西郷。
阿部「やっとペルリが去りましたな。函館・下田とまわって。だが・・・とても安心できる状況ではない」
忠優「うむ、ロシアもまだうろついておる。長崎から今度は樺太に向かったようだが。川路」
川路、隣にやってくる。
川路「はい。ロシアとの交渉状況ですが、ぶらかしに終始していますが、相当に執念深いですな。私が樺太まで行かずに大丈夫でしょうか」
阿部「堀なら任せられる、少々短気な部分はあるがな。それに、北で行うのは国境の確認だけだ」
川路「ロシアの軍事基地が久春古丹に築かれたとのことで心配です。いずれにしろ、堀織部正の報告待ちですね」
忠優「水野から気になる知らせも来ておる。ロシアとエゲレス・フランスが戦争を始めたという」
阿部・川路「なんですと」

忠優「うまく立ち回らないと巻き込まれる恐れもある」
阿部「・・・、ロシアとの交渉はいっそう難しいものになったか」
忠優「川路、貴様や水野でだめならば腹をくくるしかあるまい。だが、ロシアやエゲレスと争いとなれば、メリケンと条約を結んだことが生きてくる。逆に攘夷を叫ぶご老公他を納得させる好機となるかもしれん」
阿部「・・・」
『おおー』と歓声が上がる
湾の陰から大型帆船がやってくる。
阿部「来たか」
忠優「鳳凰丸。5月1日に竣工した我が国最初の西洋式大型帆船。わずか8ヶ月で竣工とは浦賀の者どももよくやる」
川路「船尾の日の丸もいいですな。正式に日本国国旗とする布告をするのですな」
忠優「ああ」
阿部「・・・」
不安ななかも多少安堵感が見える阿部。
意を決する阿部。
阿部「忠優殿、早急に、そして最優先に取り組まなくてはならないのは軍制改革です。それは貴殿もよく分かっておられますな」
忠優「うむ」
阿部「この鳳凰丸、水戸と薩摩が建造中の艦船、そしてオランダより買い入れる蒸気船。これらによって艦隊となす海軍、それを作らねばならぬ。そして銃を基本とした近代的陸軍、西洋の研究を専門に行う洋学所。さしあたりこの3つを創設するのが急務でござる」
忠優「おっしゃる通り」
阿部「だが、これも大半の者が理解できずに拒絶する案件であろう。となると」
忠優「まさか・・・」
阿部「やはり御老公に進めてもらうことが一番の早道かと」
忠優「・・・」
阿部「賛成して下さらんか、忠優殿」
忠優「・・・」
離れたところに、斉昭、藤田ら水戸勢がいる。
斉昭「くっ、薩摩でなくまさか浦賀に先を越されるとはな。我らの旭日丸はどうした」
東湖「竣工にはまだ少し時間が」
斉昭「攘夷を行う軍艦製造で尊王攘夷の総本山である水戸が後れを取ってどうする」
東湖「御意。我らが先頭を切ってこそ全国の支持が得られ、攘夷の意気も上がるというもの。ただ、少し遅れたとしてもそれほど気にすることはありません。鳳凰丸はあくまで中型艦。旭日丸は本格的な大型艦なのですから」
斉昭「そうか。そうじゃな」
満足そうな斉昭。
また離れたところにいる斉彬と西郷。
西郷「まさか前もって作り始めていた我が藩よりも先に西洋船を造る者があろうとは思ってもみなかったでごわす」
斉彬「なんだ、悔しいか、西郷」
西郷「悔しいというのはなかですが。じゃっどん、さすがはご公儀かと」
斉彬「よし、よい判断じゃ。公儀の力は強大じゃ。しかしその強大なる公儀をもってしても西洋にはまるで歯が立たぬ。公儀も薩摩も全国の諸侯が一体となって向かわねばとても西洋には対抗できぬのだ。わかるな、西郷」
西郷「はい」
品川沖に浮かぶ鳳凰丸。
斉彬、視線を鳳凰丸から阿部に移す。
忠優と話している阿部。
忠優を見る斉彬。
斉彬「・・・」

 

 

 

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