【901】第7話 B1 『雲行丸』≫
○函館
函館の遠景。
『函館』
函館湾に3隻のイギリス艦隊が入港している。
翻るイギリス国旗。
『安政2年(西暦1855年)3月12日』
物資を積み込んでいる様子。
○伊豆
伊豆・戸田村(現沼津)の風景。
『伊豆・戸田』
小型の西洋船が進水している。
誇らしく乗船しているプチャーチン。
プチャーチンの周りにはロシア人、手を振っている。
それを見送る大勢の日本人。
『元気でな』などと手を振っている。
『安政2年(西暦1855年)3月22日』
○長崎
長崎の遠景。
『長崎』
出島。
オランダ国旗。
スームビング号が来航している。
『安政2年(西暦1855年)6月9日』
商館からながめるクルシウス。
N「ぺリーが離日してまだ1年にも満たないこの時期、既にこれだけの西洋船が発着している」
○石川島
隅田川の風景。
『隅田川河口・石川島』
旭日丸が進水している。
N「日本も前年に完成した鳳凰丸に続き、遅れること7か月で薩摩藩が昇平丸を竣工。さらに水戸藩もこの年、石川島造船所にて旭日丸を進水させていた。そして7月3日」
○品川海岸
小さい蒸気船、雲行丸が回航している。
丘には大勢の見物人。
船にも人が大勢乗っている。
N「薩摩藩は、日本初の蒸気船雲行丸の建造に成功する。小さいとはいえペリー初来航からわずか2年で蒸気船を作り上げた薩摩藩並びに藩主島津斉彬の声望はいやが応でも高まった」
大きな身振り手振りで諸大名に雲行丸の説明をしてる斉彬。
○雲行丸・甲板
海上を航行している雲行丸。
その甲板で、ほどよい風を受けながら、阿部と牧野が話している。
牧野「斉彬殿には本当に感服いたしますな」
阿部「・・・」
心ここにあらずの阿部。
心配そうに阿部をみやる牧野。
牧野「ご老公の軍制参与辞職届の件・・・、ですな。どのように致しましょう」
阿部「・・・」
牧野「もはや参与を続けて頂くのは難しい状況・・・、続けて頂くには交換条件として要求している伊賀殿と乗全殿の罷免をする以外はなかろうかと・・・」
阿部「・・・」
以前は即答したものの、今回は考え込む阿部。
阿部「それは・・・、できん」
牧野「・・・」
牧野も阿部の苦悩はよくわかる。
牧野「しかし、それでは・・・」
声「軽快に走るわが雲行丸の上で、実に重たい表情ですな」
二人が振り返ると、斉彬。
斉彬「参与辞職届のご老公の件でござるか。この大事な時期にご老公にも困ったものでござるな」
二人「・・・」
斉彬「どうですかな、伊勢殿。まず京の帝に奏上する件を実行されたら。これはご老公の機嫌だけでなく、全国諸侯の懸念を払しょくするための効果も期待できると思いますが」
牧野「・・・うむ。それは確かにそうですな。伊勢殿、いかがか」
阿部「・・・」
斉彬「まずは京への異国に対する状況報告のみを水戸藩に許す、としては。異国との状況報告だけならば帝の政の参加、ということには相成りますまい。どうですかな、伊勢殿」
厳しい表情だった阿部の顔が緩む。
阿部「・・・、薩摩殿は本当によくできる御仁でござるな。ほとほと感服いたしまする」
微笑む斉彬。
阿部「軍艦建造でも明らかなように、薩摩藩・水戸藩の協力は我が帝国の強兵には欠かせませぬ。それに、月末には海軍操練所、来月には洋学所の開設も控えている。たいへんご足労をおかけするが、斉彬殿、それでご老公にお働きかけ、いただけるか」
斉彬「承知いたしました」
阿部たちから視線を外し海を見る斉彬。
斉彬「ただ、忠優殿と乗全殿の解任を避けられるかは保証はできませぬぞ」
阿部「それは、うっ」
めまいがして柵にもたれかかる阿部。
斉彬「い、伊勢殿」
牧野「伊勢殿、だ、大丈夫でござるか」
阿部を抱きかかえる、斉彬。
阿部「だ、大丈夫でござる。いやはや、蒸気の力で進む船ゆえ、いささか船酔いしたようじゃ」
阿部の一言に安心する二人。
斉彬「ははは、そうですな、未だかつて経験したことのない進み方ですからな、はっはっは」
牧野「確かに確かに。じゃが斉彬殿、そうは言ってもそろそろ岸壁に戻って頂けますかな」
斉彬「そうですな。それは失礼。おい」
部下に指示を出す斉彬。
阿部「・・・」
阿部、顔色が青い。
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