【950】第10話 B2 『京』≫
○京都・全景
京都の風景。
本願寺の五重塔が見える。
○近衛家・外観
『近衛邸』
○同・内
西郷が近衛忠煕、僧・月照、女官・村岡と会っている。
近衛が書状を読んでいる。
近衛「次の将軍さんを一橋慶喜さんにするよう勅命を出す・・・」
西郷「はい。堀田老中首座自ら京に参られるとのことにございまする」
月照「だが、堀田さんが京に参られるのは異国との条約締結の勅許を得ること、と聞いておりますが」
西郷「はい。それを隠れ蓑にすることで将軍家継嗣の内勅降下は目立たないものとなりまする。却って好都合かと」
村岡「篤姫さんはいかがお過ごしでっしゃろ。大奥での運動はうまくいっておられるでしょうか」
西郷、顔が曇り
西郷「大奥の状況は良くないようです。篤姫様はお元気でいらっしゃいますが、運動以前に御老公の評判があまりに悪く、その息子たる慶喜様擁立などと口にも出せぬご様子」
村岡「それはおいたわしや・・・」
近衛「よし、分かった。九条関白様にはワシの方で早速会いに行こう」
○三条家・外観
『三条邸』
声「おお」
○同・内
うずたかく積まれた小判の包み。
三条実万が嬉しそうにしている。
三条「これは助かる。幕府からの禄も少なく、生活が厳しい。新興の家は生活が困窮しておる。岩倉家など家を博徒に貸して、賭場を開いているような有り様じゃからの。いや、助かる助かる」
平伏している男、顔を上げる。
男は橋本左内。
左内「三条様におかれましては、ぜひ将軍継嗣は慶喜様に、という勅命降下働きかけて頂きたく」
三条「おお。分かったぞ。それならば前関白である太閤・鷹司卿がよろしい。現関白は九条卿だがの、実際の権力は関白でなく、まだ太閤が握っておる。よし、早急に太閤に言ってやるぞ」
左内「よろしくお願い致しまする」
左内、ニヤリとする。
○御所
『御所』
○同・帝の間
上段に簾がかかっている。
簾の奥にいる孝明天皇。
姿は見えない。
下段に控える関白・九条尚忠。
そこへ入ってくる太閤・鷹司政道。
九条「これは太閤殿。本日は太閤殿がおでましになる日ではありませぬが」
鷹司「それはそなたが知らぬだけのこと。そなたに知らされぬことなど数知れぬほどありますからな、ほっほっほ」
九条「なんですと」
帝「やめよ。今日は朕が太閤を呼んだ」
平伏する二人。
帝「幕府が異国との条約締結に対する勅許を求めに来るという。如何に対したらよいであろうか」
九条「異国が侵入してくるなど、この神州が穢れます。一切お認めにならぬがよろしい」
鷹司「視野の狭き者の意見よの。幕府がわざわざ勅許を求めに来るのだ。それは、外国と条約を結べる権限は唯一帝のみが有する、ことに他ならぬ。それを認めれば京が幕府より上であることが明白となる」
九条「フフフ、帝の御心が全く分からぬと見える。帝は異人など一人もこの神州に入れるつもりなどないわ」
鷹司「お主一人で幕府に刃向うがよいわ。帝の事は臣にまかせるがよろしい」
にらみ合う両名。
帝「・・・」
簾の下でぎゅっと扇子を握り締める。
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