【958】第10話 D2 『大老進言』≫
○江戸城・外観
『安政5年(西暦1858年)4月21日』
○同・謁見の間
堀田が家定に謁見している。
家定は例の如く豆を煎っている。
堀田「上様、堀田、昨日京より戻りましてございます」
家定、豆を味わいながら
家定「京の味はどうであった?薄味のようでいてしっかりダシが効いておろう。はっはっは」
堀田「は、はい・・・」
手拭いで汗をぬぐう堀田。
堀田「勅許についてははっきりとは下りませんでした。やはり公家方は異国の状況にうといゆえ・・・」
キッと堀田を睨む鋭い目。
しかしすぐにその色は消えて
家定「わしはどうもあの味が苦手でのぉ。つい江戸の味にしとうなってしまう」
堀田「・・・」
堀田、思案したのち、意を決して
堀田「上様、本日は京の報告の他に、もう一つ上奏したき儀がござりまする」
家定「なんじゃ、今度は京の水の話か?」
堀田「松平越前守慶永様を大老に据えたく、上申させて頂きます」
家定「・・・」
一瞬、驚いた表情を隠せない家定。
家定「慶永を大老じゃと」
堀田「はい。物が分からぬとはいえ、ここまで来た以上、京の了解を、勅許を得なければ前に進みませぬ。慶永様を大老に据えれば、御老公のお力添えも得て、一気に話を持っていけまする」
家定「・・・」
家定、まじめになる。
家定「なんじゃ、お主ではできぬと申すか」
堀田「・・・。はい。残念ながら」
家定「・・・。大老家は井伊・酒井・土井・堀田の譜代四家と決まっておる。それをお主は知らんのか」
堀田「むろん知っております」
家定「それであるのに、家門である慶永を大老に据える、というのだな」
堀田「はい」
相手を射抜くような目で堀田を睨む家定。
家定「お主は公儀を壊す気か?」
堀田「え?」
堀田、家定を見る。
初めて家定がまじめな顔をしているのを見る堀田。
堀田「・・・」
家定「慶永を大老にしたら、幕府は壊れるぞ。それでもよいのだな」
堀田「・・・」
家定の迫力に堀田、声も出ない。
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