開国の父 老中・松平忠固

【959】第10話 D3 『決断』≫

○江戸城・勘定部屋
忠固、水野、石河、川路が作業をしている。
そこに報告に来る井上。
井上「今、堀田殿が上様に謁見いたしまして・・・」
石河「老中首座を辞任されたか。上様のこと、次席の伊賀がやれ、と早くも申されたか?」
井上「それが・・・、越前守慶永様をた、大老に推挙した、とのこと・・・」
忠固「!」
石河「!」
水野「!」
川路「・・・」
冷静な石河が立ち上がって激昂。
石河「な、なんだと。慶永様が大老??、呆けたか、備中」
水野「ま、まさに青天の霹靂。自分の失態は棚に上げ、越前様を大老にして保身に走ったか。それにしてもこれはひどい」
川路「・・・」
忠固「川路、いったいどういうことだ、これは」
川路、苦渋の表情で
川路「今回、条約勅許は得られませんでした。ですが、それ以上に京では、将軍継嗣問題の工作が暗躍してまして・・・。私や岩瀬、そして堀田様もほとほとそれに振り回されまして。勅許を得るにはまず継嗣問題を片づけなければ始まらない、そう堀田様は判断されたのだと思います」
石河「上様継嗣をだしに、などと何たるデタラメ、なんという体たらく。堀田殿がまず辞めるべきであろう」
水野「いや、堀田殿の進退などどうでもよい。条約締結はどうなるのだ。もう交渉は妥結しているのだ。後は調印を待つのみだぞ。どうなのです、川路殿」
川路「条約の内容は・・・、全く議論にはなっておりません。というよりお話さえしておりません。岩瀬など部屋に入ることさえ許されませんでした。身分が低いという理由で・・・」
三人「・・・」
呆れかえってものが言えない。

 

○水野邸・内(夜)
水野、井上、岩瀬、永井が集まっている。
岩瀬「俺は慶永様が大老になるのは賛成だ」
水野、驚く。
水野「なんだと」
岩瀬「やはりカギを握っているのは御老公だ。京で最も力を持っているのは太閤鷹司様。その太閤様のご正室は御老公の姉君だ。勅命も御老公の子に当たる慶喜様を継嗣にということは間違いない」
水野「そのためには慶永殿が大老になれば、すべてがそのように進む、という訳か」
岩瀬、頷く。
永井「慶喜様はそれは聡明なお方。先日私が御老公よりまさに切腹を申し渡されんところを救ってくださったのは他ならない慶喜様。あの方が上様になれば、この日本の難局も乗り越えることができる、と思いまする」
水野「・・・」
井上「だが、御家門家は大老にはなれぬ家柄。そんなことをしては秩序が乱れるのではなかろうか」
岩瀬、馬鹿にした顔で
岩瀬「古い体質は改めなくてはならない。メリケンと交易し、日本も文明国の仲間入りをしなければならないのだ。御家門が大老になれぬなどと言う下らないしきたりはさっさと改め、実力のある者が政務を取り仕切るべきだ」
まさにそれは自分だと言いたげな岩瀬。
井上「・・・」
岩瀬の危うさが心配の表情。

 

○上田藩邸・道場(夜)
剣を振っている忠固。
声「忠優よ、お主が長男に生まれておったらな。この譜代筆頭、姫路・酒井雅楽頭家30万石の当主として、今頃大老となれたものを・・・」
声「忠優殿、大老四家である酒井家からこの上田5万石へ・・・、次男なるが故とはいえ誠に心苦しい」
一心不乱に剣を振る忠固。
そして、大上段から剣を振り下ろす。
かしゃりと剣を鞘に納める。
忠固「上様に会うぞ」
端で見ていた剛介。
剛介「では明日早速手配を」
そして、考えながら
一点を見つめる忠固。
決意の表情。

 

 

 

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