開国の父 老中・松平忠固

【962】第11話 A2 『大老の居場所』≫

○江戸城・謁見の間
上座に家定が座している。
下座に直弼。
横には、居並ぶ老中陣。
堀田は欠席している。
家定の脇には、石河がいる。
家定「掃部守、急な辞令で済まなかったな」
直弼、平伏している。
直弼「滅相も御座いません。井伊家はご公儀開闢以来大老を仰せつかる身。いつ何時でも準備はできております」
家定、ふざけたところがない。
家定「そなたの兄も大老であった。そこの伊賀はその前大老にも仕えておる。大老の仕事のなんたるか、伊賀に聞けばよい」
直弼、横目で忠固を見る。
フンという表情。
直弼「掘田備中守が不在のようですが」
久世「本日は体調不良で登城しておりません」
直弼、久世は無視で
直弼「聞くところによると上様、堀田備中守は大老に御家門の越前慶永殿を推挙したという話、本当ですかな」
家定「まことじゃ」
直弼「慶永を大老に、というのは、御継嗣を一橋慶喜にしようという魂胆が見え見え。断固そんなことは」
家定「あぁ、もう良い。何か京都でも騒ぎになったと聞いた。これはまさに徳川宗家の問題、他人が口を出すことではないわ。それに世継など初めから決まっておる」
直弼「え?、ど、どなたにです?」
家定「もしわしに子ができなんだら、紀州慶福じゃ。少なくとも慶喜になるなんてことは余が生きている限りない」
直弼「・・・」
忠固「だがこれは、あくまで内々にして頂きたい。アメリカとの条約調印が2カ月と迫っている。条約締結後に正式に上様から発表する、そういう段取りになっておる」
直弼「・・・」
家定「そういうことじゃ。条約を調印し交易がはじまったら、公儀の財布は潤うぞ。商いの中心も大坂からこの江戸になるのだ。直弼、そちも忙しくなるから前大老のようにただ座っているだけ、というわけにもいかぬぞ、あっはっは」
にこやかなる老中陣。
忠固「あと、上様御用取次に石河政平が就任した。面識はござらんと思うが、長く勘定奉行を務めた信頼できる男だ」
石河「石河政平にございまする、大老様。上様の身辺についてはこの石河にお任せください」
直弼「・・・」
居場所がないことに唖然とする直弼。

 

 

 

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