開国の父 老中・松平忠固

【963】第11話 A3 『一橋派』≫

○越前藩邸・内
斉昭、慶永、堀田らが集まっている。
川路も同席している
お通夜のような状況。
堀田が重たい口を開く。
堀田「我々が最も見誤っていたもの・・・、それは紀州派でも京都でも、そして伊賀守でもなく・・・、上様だったのだ」
斉昭「・・・」
慶永「・・・」
呆然としている一同。
堀田「上様が暗愚だという風聞。あれは全く作られたものだったのだ。上様は暗愚のふりをしていただけで、実に聡明、いや暗愚のふりをするほど用心深く、恐るべき方だったのだ・・・」
慶永「・・・」
たらーと冷や汗をかいている慶永。
斉昭「ま、まさか・・・、わしは子供のころから知っておるぞ。であるのに・・・、子供の頃よりしたたかであったというのか・・・」
堀田「おそらく。そして、その上様の本当の姿を知っていた重役が二人だけいた。それが死んだ阿部伊勢守と、そして松平伊賀守だった・・・」
慶永「そ、そんな・・・。阿部殿は慶喜擁立支持だったはず。だからこそ慶喜殿を水戸家から一橋家相続を認めてくれたはずなのに・・・」

 

○回想
49日法要が行われている。
阿部と慶永が話している。
慶永「家慶公がお亡くなりになった今、今こそ次期将軍は慶喜殿に。その為に阿部殿も慶喜殿を一橋家当主にねじ込まれたのであろう」
阿部、考えながら
阿部「49日法要が済んだとはいえ不謹慎ですぞ、慶永殿」
慶永「しかし、慶喜殿を将軍継嗣とする絶好の機会なわけで」
考え込む阿部。
阿部「慶永殿、事は重大。簡単なことでござらん。この件については、私の指示があるまでは誰にも口外しないでもらいたい」
慶永「な、なぜです」
阿部「もしこれが政争の具にでもなれば公儀を二分・・・、いえ、私から指示を出すまでは絶対に動かないで頂きたい。よいですな」
慶永「・・・」

 

○同・内
回想終わり。
慶永「・・・」
斉昭「掃部守が大老となった以上、御継嗣は紀州になるのは目に見えている。今後、どうするつもりだ」
慶永「と、とりあえず急ぎ薩摩に戻っている斉彬殿にお考えを聞いて」
堀田「薩摩殿はいかにお考えで?」
慶永「あの人のことだ、武力を持って上府する決断もありうる」
驚く川路。
川路「お、お待ち下さい。それでは謀反に・・・」
皆、斉昭の方を向く。
斉昭「・・・」
一同、答えが出ず、沈黙する。

 

○蕃書調所・外
声「な、なんだって」

 

○同・内
岩瀬・永井・左内が集まっている。
岩瀬「掃部守が大老・・・」
左内「まったく虚を突かれた。一橋様を御継嗣とする勅諚の発表前にこんなことになろうとは」
岩瀬「彦根なんぞ児輩に等しき者。大老の器ではない」
永井「30過ぎまで部屋住みで茶道と華道に明け暮れた者と聞きます。上府してからもこれまで英名は全く聞かず、昨年来別段の建議もない。確固たる主張ましてや国際情勢における判断など期待できるはずもありません」
左内「い、いったい誰がこんな人事を・・・。堀田殿以外でこのように動ける者といえば・・・」
岩瀬「伊賀守様・・・」
永井「うむ、伊賀守様しかおられぬな」
左内「・・・。あの方がそんな力を。傲慢と聞きながら山吹菓子を断ったり、偏屈な人であるのは感じておったが」
岩瀬「いや、そうではないのだ・・・」
永井「あの方は違う」
左内「・・・」
岩瀬「と、とにかく行こう。直接真意をうかがうのだ。あの方が何を考えているのか、話の出来ぬお方ではない」
永井「うん、そうしよう」
左内「・・・」

 

 

 

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