開国の父 老中・松平忠固
【964】第11話 A4 『不気味な沈黙』≫
○井伊邸・茶室・外観(夜)
声「ま、まさか上様が」
○同・内(夜)
直弼と長野が話している。
直弼「そうなのだ。上様は実に聡明な方であられる。あれは暗愚のようなふりをしていたのだ」
長野「なぜ暗愚のふりなど・・・」
直弼「知るか。大老になったはなったが、わしの居場所などない。政務は伊賀守をはじめ老中がおさえ、下々の官僚も従っておる。条約交渉もすでに完了しておるのだ」
長野「・・・」
直弼「しかも奴め。自分の腹心である石河政平を上様の御側衆にしおった。上様を独り占めするつもりだ」
長野「腹心を御側衆に・・・」
考え込む長野。
直弼「伊賀守などたかが上田五万石の小大名。大老になりさえすれば何とかなるとタカをくくっておったが、あやつの力の源泉は上様との繋がりなのだ。このままでは俺はただの飾りのままあやつらに使われるままになってしまう」
長野「・・・、そうですか。せっかく幼年の御継嗣を思いのままにできるようにしたところで、今の上様がおられる以上は無意味というわけですか」
無表情の長野。
直弼「・・・」
長野「石河の出自はどこです。やはり真田ですか?それとも伊賀ではござりますまいな」
直弼「そんなことは知らん」
長野「・・・。分かりました。それはいいでしょう」
興奮冷めやらない直弼。
長野「殿、殿は稀なる運をお持ちの方。家を相続できるはずのない非嫡出子の13男が世継ぎとなり、そして藩主となり、今また大老となったのです。願いはかなうでしょう」
直弼「うむ。だがこんどばかりは・・・」
長野「・・・」
不気味に無表情の長野。
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