開国の父 老中・松平忠固

【971】第11話 C3 『台慮』≫

○江戸城・廊下(朝)
『6月22日』
朝焼けがまぶしい。
老中の久世がすごい形相で歩いている。

 

○江戸城・御用部屋
ふすまを荒々しく開け中に入る久世。
久世「どういうことですか」
中にいる直弼と脇坂、内藤の閣僚陣。
脇坂「本当にどうしたものか。井上と岩瀬が勅許を待たずに調印してしまって」
久世「そうではござらん、堀田殿は当然としても伊賀殿がなぜ登城停止なのだ。いったい全体どういうことなのだ」
脇坂「そうだ、もとはと言えば伊賀殿が二人をけしかけたのだ。あの二人が無断調印をした責任は当然伊賀殿にある」
久世「ば、バカな。そんなバカな話があるか。閣議で全会一致で調印は了承されたではないか。なぜ伊賀殿一人が罪をかぶる必要がある。いや、そもそも何の罪だ、何を以て罪なのだ」
脇坂「う・・・、それは・・・」
久世「井伊大老、いったいどういうことなのだ、これは」
内藤「・・・」
内藤、困惑しきった顔でうつむいている。
久世「大老」
直弼、落ち着き払った顔で
直弼「台慮である」
久世「な、なに?」
直弼「台慮、すなわち上様の思し召しである」
久世「う、上様の・・・」

久世、少し考えて
久世「な、ならすぐに上様に御目通り願おう。上様が信頼厚き伊賀殿に対しそのような仕打ちをするとは思えん。そもそも上様も条約調印は前向きだったはずだ」
直弼「それはできん」
久世「なぜだ」
直弼「上様はいまご体調がすぐれず伏せっておる。面会などできん」
久世「な・・・、では御用取次の石河だ、石河をこれへ」
脇坂「石河殿は登城しておらぬ。体調不良ということだがけしからぬ話だ。この一大事に」
久世「・・・」
直弼「だが、この直弼が直接上様より仰せつかっている。堀田備中守並びに松平伊賀守は罷免とする」
久世「ひ、罷免・・・」
直弼「これは台慮である」
久世「・・・」
久世、がくっと膝をつく。

 

○同・大広間
『6月23日』
大勢の諸侯が集まっている。
そこで条約調印が発表されている。
脇坂「安政5年6月19日、アメリカとの間で通商修好条約を締結した。井上信濃守並びに岩瀬肥後守が神奈川において調印。開港場は長崎・函館・神奈川である」
『おお』のどよめき。
『勅許はどうなった』『勅許は?』と次第に騒ぎが大きくなる。
脇坂「勅許なきまま無断調印したかどにより、堀田備中守並びに松平伊賀守は老中を罷免とする」
『おお』より大きいどよめき。
『おい、どうなるんだ』
『御老公は本日登城してないぞ』『これはたいへんなことになるぞ』などの声。

 

○水戸藩邸
斉昭が状況を知らされる。
斉昭「なにぃ、条約を調印しただと。勅許はどうした。勅許なしに無断でか。なんということを。許さん」

 

○越前藩邸
慶永「無勅許の責任を取って、堀田・伊賀両名が罷免・・・?罷免されたのか、伊賀守が?上様がか?」

 

 

 

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