開国の父 老中・松平忠固

【977】第12話 A1 『イギリス艦隊、襲来』≫

○神奈川・全景
『神奈川』
オランダ国旗とロシア国旗の軍艦2隻が停泊している。
『7月11日』

 

○同・奉行所
井上と岩瀬、プチャーチンと握手している。
岩瀬「これで無事に日露修好通商条約を締結することができましたね、プチャーチン提督」
プチャーチン「長かった。私にとってしたらこの日が来るのをどんなに待ったことか」
思わず涙ぐむプチャーチン。
井上「提督はペリー提督より前から来日していますからな。それに大震災の大津波によってディアナ号も失ったし」
プチャーチン「ロシア人と日本人が力を合わせて小さいながらも軍艦ヘダ号を作った。そのおかげでロシアに帰ることができた・・・。出航する時の日本人の人たちの悲しんでくれる姿を私は生涯忘れることはない」
岩瀬「日本人の救助もしていただき、改めて御礼申し上げる。川路殿もプチャーチン殿に会いたがっておりました」
プチャーチン「川路殿か。懐かしいの。こうして条約も締結されたのだ。また会えることを期待している」
岩瀬「庭にパーティの準備がしてあります。クルシウス殿もお呼びしていますので、どうぞ庭まで」

 

○同・庭
3人にクルシウスを交えて4人で飲んでいる。
クルシウス「昨日の日蘭修好通商条約、そして本日の日露修好通商条約締結に乾杯」
一同「乾杯」

がやがやと飲んでいる。
クルシウス「ん?、船だ」
みな、海の方を見る。
艦隊が迫っているのが見える。
プチャーチン「あれは・・・、ユニオンジャック。イギリスだ」
井上「!」
岩瀬「い、イギリスが来た・・・。艦数は4隻・・・」
そのまま神奈川湾に入ってこないで、さらに江戸方面へ進んでいく艦隊4隻。
井上「こ、こちらに来ないぞ」
岩瀬「ま、まさか江戸に。イギリスは停泊地がここ神奈川であることを知らないのか」
クルシウスが険しい顔で
クルシウス「な、なるほど。驚くには値しない。おそらくイギリス人達は直接江戸まで行くのだろう。何しろチャイナで各地を焼き払い、北京に迫って従属的条約を締結させたばかりだ。当然同じ行動をとろう」
プチャーチン「わがロシアもクリミアでイギリス・フランスに敗北したばかり。両国の科学技術は突出しており、彼らを止めることは誰にもできない」
井上「・・・」
岩瀬「で、伝令を。いや、井上殿。我らがすぐ行こう。クルシウス殿、プチャーチン殿、申し訳ない。これにてお開きにさせて頂く」
井上と岩瀬、そそくさと出ていく。
クルシウスとプチャーチン、気の毒そうに見つめる。
クルシウス「せっかく条約を締結したのに気の毒に。チャイナと同じ運命になるか」
プチャーチン「最恵国待遇によって苦せずして我らも同条件になるが、やはりいささか可哀そうではありますな」
走り去るイギリス艦隊。

 

○忠固邸
忠固に水野、永井、堀が挨拶している。
掘「ただいま函館より戻りましてございます、ご老中。あっ」
忠固、苦笑い。
掘「も、申し訳ございません。しかし、一体全体、どうなっておるのですか。伊賀守様が罷免とは。それに、あの噂・・・、上様が石河様や本郷様によってその・・・、暗殺・・・」
一同、一瞬にして表情が曇る。
水野「はらわたが煮えくり返る。これほど卑劣な陥れはない。石河様や本郷様を暗殺者呼ばわりなど。それも理由が粛清された一橋派が上様を逆恨みして・・・、などとそんなアホな理由があるか!」
永井「堀君、いずれにしろ一橋慶喜公寄りの者達は失脚させられ、事実として上様が亡くなり、幼公が第14代将軍になられた。その実質的支配者は井伊大老だ」
堀「・・・」
絶句する堀。
堀「私は井伊大老のことは全く知りませぬ。どのようなお考えなのでしょう。とりあえず、今後の外交交渉、条約締結は変らずでよろしいのでしょうか」
忠固「よい。3日前に新たに外国奉行が新設され、お主とここにいる水野、永井、そして井上、岩瀬を加えた5人が任命された通りじゃ。変らずに進めてよい。要塞の建設の方はどうじゃ」
掘「はい。函館の要塞の建設は順調です。五稜郭という名称になる予定です」
忠固「五稜郭か。よい名じゃ」
永井も心配そう。
永井「しかし外交の件は堀の心配する通り、今後はどなたに指示を仰げば・・・。御大老では埒があきませんし」
水野「ともかく、我らが滞りなく進めるのみ・・・じゃ」
使いが庭まで来る。
使い「申し上げます。外国艦隊が江戸湾を進入中」
一同「なに!」
さらに使いが入ってくる。
使い「侵入してきた艦隊はエゲレス艦隊。し、品川沖まで・・・、すぐ見えるところまで迫ってます」
一同「!!」
水野「御前」
忠固「うむ」
忠固の行きたそうなそぶりを感じ取る水野。
水野「御前も行かれますか。屏風、用意しますが・・・」
忠固「・・・、いや・・・」
水野「・・・」
忠固「頼んだぞ、水野」
水野「はい」
立ち上がる水野。
水野「行くぞ、ついに来るべき時が来た」
3人、確固たる決意で出ていく。

 

○品川海岸
各お台場砲台がある。
砲撃の準備がなされている。
その間にイギリス艦隊が停泊している。
艦隊を取り囲むようにして無数の日本の船。
それをたたずんでみている水野、堀、永井。
三人「・・・」
そこへ、井上、岩瀬がやってくる。
永井「岩瀬君、来たか」
岩瀬「ああ」
井上、水野と頷き合う。
一同「・・・」
イギリス艦隊を見つめる5人。

 

○イギリス旗艦・艦橋
エルギン卿と副官オリファントが乗っている。
副官「海岸まで3マイル、この国の王都・キャッスルまで5マイルの位置です」
エルギン卿「よろしい。この国はアメリカと条約を結んだようだな」
副官「アメリカの全権ハリスはおそらく古い時代の受難をよく覚えているのでしょう。世界空前の大貿易と大海運を要する超大国・我が大英帝国に対抗しがたい諸国同士で自然同調する、その念が強いのかと」
エルギン卿「弱者連合というわけか。無駄なことを」
副官「アメリカとしては、日本は海を挟んでの隣国、我が国の手にあるインド・チャイナに対する足場という見方もあるでしょう」
エルギン卿「ふん」
取り囲んでいる台場の砲台や無数の和船を眺めるエルギン卿。

 

 

 

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