開国の父 老中・松平忠固

【981】第12話 B1 『開港前夜』≫

○江戸湾内
進む米国船。
『安政6年(西暦1859年)6月1日』
船にはアメリカ国旗。

 

○アメリカ艦船・外観
声「横浜?」

 

○同・甲板
ハリスと副領事ドールが話している。
ドール「神奈川じゃないのですか?」
ハリス「そうだ、条約に神奈川と明記されているにも関わらず、開港地は横浜だというのだ、一方的にな」
ドール「どういう魂胆なのでしょう」
ハリス「横浜は山や川に囲まれた僻地だ。しかも東海道ロードや神奈川シティから離れた寒村、何もない場所だ。つまり日本は江戸の開港地も長崎の出島のように隔離しよう、という考えなのだろう」
ドール「それはひどい」
ハリス「さらに困ったことがある。岩瀬と井上がいなくなったのだ。非常にやりにくくなった」
ドール「どういうことでしょう。方針が変わったのでしょうか」
ハリス「分からん・・・」

 

○品川沖
イギリス軍艦が台場の合間に停泊している。
海岸には、西洋の上陸艇。

 

○高輪東禅寺・外観
海岸から伸びる参道の奥にある東禅寺。
寺に入っていくイギリス人。

 

○同・御堂内
イギリス公使オールコック、副官ヴァイス以下、一行が椅子に座って、休憩している。
そこへ入ってくるアーネスト・サトウ。
サトウ「オールコック公使」
オールコック「サトウか。いま、この東禅寺というテンプルを我が大英帝国領事館として接収したところだ」
サトウ「それは何より。ハリスが上海から戻ってきたようです。現在下田から神奈川に向かっているとのこと」
オールコック「そうか。開港日は明日。我々も向かうか、神奈川に」
部屋を出ていく一行。

 

○同・参道
参道を歩く一行。
サトウ「どうですか、公使。世界の最果てにあるジパングの首都・江戸は。どんな気分です?」
オールコック「ふふふ。わしはモノ好きでね、地球最後のフロンティアを開拓する栄誉を前にわくわくしておるよ。ふっ、それは君も同じか」
サトウ「ははは、公使も日本旅行記をお書きになるつもりですか。まぁ、モノ好きでなきゃ、こんな地の果てまで来ないでしょう。ですが、前任地であったチャイナの広東とはだいぶ違うようですよ」
オールコック「ん?」
サトウ「長崎では、商人が満載してきた商品は全く売れません。倉庫に山積みな上、一部は送り返すしかない始末です。しかも世界一安いと言われる日本の物産はほとんど買い付けることができません。両替額が極端に制限されているからです。一日わずか4ドルですよ、子供のこずかいにもなりゃしません」
オールコック「む、むおう」
サトウ「これは日本政府が通商を妨害しようとしているに相違ありません。チャイナでは見られなかった新手の妨害ですよ」
オールコック「うむむ」
サトウ「しかも日本人商人たちは両替どころかこちらのドルを受け取ろうともしません。条約では認められているのに、バーター取引なら受けるというのです。バーター取引では世界一安い日本製品のうまみがまるで出ませんよ」
オールコック「分かった。外国奉行に直々に抗議してやる」
参道の向こうに海に浮かぶ軍艦やお台場が見える。

 

○忠固邸・外観
不審な男が屋敷を見張っている。
声「監視されている?」

 

○同・内
井上が家老の藤井や剛介と話をしている。
剛介「はい。井伊大老の暴挙はとどまることを知らず。外国奉行を罷免されたというのは本当ですか?井上様」
井上「うむ、岩瀬殿と永井殿も一緒だ。越前・橋本左内に至っては捕縛、薩摩・西郷吉之助は自害したという・・・」
剛介「む、無茶苦茶だ・・・」
井上「ところで御前は?。開港を前に張り切っていらっしゃると思ったのだが」
剛介「それが・・・、御堂にこもりっきりで・・・」
藤井「この爺には殿のお気持ちが分かる。彦根を大老にしたばかりに天下が大きく揺らいでおる。責任を感じておられるのじゃ。御自害されないか心配じゃ」
剛介「じ、じが・・・」
井上「ま、まさか」
一瞬焦ったが、すぐに冷静さを取り戻す井上。
井上「御前は大丈夫だ。開港に向けて上信越から江戸、そして横浜への物流をきちんとお整えになっているではないか。さらに先を見ていらっしゃるのだ」
一同、それでも浮かない顔。

 

○御堂
暗いなかで目を閉じ、座禅をしている忠固。

 

 

 

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