開国の父 老中・松平忠固

【988】第12話 C4 『商談成立』≫

○横浜
洋館が急ピッチで作られている。

 

○中居屋・外観

 

○同・応接室
撰之助とデント商会代理人で日本人の波松が商談している。
並松は洋服を着ている。
声「いらっしゃいました」
撰之助「お通ししろ」
忠固ら4名が入ってくる。
忠固、待っているのが音吉でないのに気付く。
忠固「・・・」
緊張して思わず立ち上がる並松。
撰之助「波松さん、こちらが前老中の松平伊賀守様です」
前に進み出る忠固。
日本人の和服に対して、自分の着ている洋服をちらりと見る波松。
御手打ちにされるのかとたじろぐ。
やはり元は日本人なのでガタガタと足が震えだし、今にも平伏しそうになる。
並松「・・・、も、申し訳・・・」
そこへ差し出される手。
並松「!」
忠固「そなたらの挨拶であろう。松平忠固である」
忠固、柔らかく微笑む。
波松、ぼろっと涙が流れ、忠固の手に握手する。
ぶわっと泣き出し、両膝をつき、すすり泣く。
忠固「そちも音吉と同じで苦労したようじゃな」
忠固、波松の肩に手をかける。
すすり泣く波松。

 

○横浜港
西洋船が3隻泊まっている

 

○中居屋・応接室
横浜港を眺めながら、椅子に座って話している忠固、撰之助、波松ら。
撰之助「この度は生糸2580斤、御買い上げ頂き、誠にありがとうございます」
並松「いえ、いくらでも買うなどと言っておきながらこの程度で申し訳ございません。御前様」
忠固「何を言うか。逆に英一番に7000斤も売ってしまってこちらこそすまぬ」
並松「英一番館、ジャーディンマセソン商会ですね。香港・上海で一、二を争う企業です。アヘン貿易で巨大になった会社です、注意された方がよいでしょう」
忠固「それは知っておる。条約ではアヘンは厳禁とした」
並松「・・・。音吉さんが言っていた通りの御方ですね」
忠固「そうそう、音吉はどうしたのだ。やつが来ると思ったが」
並松「音吉はシンガポールに行きました。今は家族と共に向こうで暮らしています」
忠固「遭難したおまえや音吉らが母国に帰国できないどころか打ち払われたりして、本当に気の毒だったな」
波松「・・・」
忠固「だが時代は激動しておる。思いのままに行き来することもできるようになるし、波松、今でも帰国してもよいのだぞ、我がが取り計ってもよい」
波松、また涙がぼろっとでる。
もらい泣きする撰之助。
夜景を眺める一同。
美しい港の夜景。
N「安政6年(西暦1859年)7月23日、中居屋は東洋に進出している2大企業であるジャーディンマセソン商会・デント商会と立て続けに商談を成立させた。この日の取引だけでこの年の年間輸出の4%を占めるという巨額取引だった。三井横浜店が残した手紙には、この年の10月時点で中居屋の取扱量は全輸出生糸の約6割を占め、横浜最大の売込商は中居屋だと記されている」

 

 

 

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