7月2020
【831】第2話 D3 『ペリー、離日』≫
○サスケハナ・艦橋
副官のコンティとペリーがいる。
コンティ「提督、本日本当にこの国を離れるんですか。来航してまだ9日しか経っておりませんが」
ペリー「ああ」
コンティ「母国からの指令で戦端は開けませんがもう少し圧力をかければ、この国の門戸は開かれるようにも思えますが」
ペリー「いや、かつてのように軽々しく大砲を撃ってこない。一見おとなしいように見えるがその奥底にはものすごいエネルギーが充満しているように思える。それらを抑え込んで平然と交渉に臨んでいる今の政権、侮れぬ」
副官「・・・」
ペリー「日本国皇帝宛の大統領国書を日本帝国に受け取らせたのだ。まずは第一回訪問の目的は十分に果たせた。相手も検討する時間が欲しかろう」
副官「はい」
考え込むペリー。
ペリー「(実際には1か月以上滞在する食料を持ってきていない。交渉が長引けばこちらが圧倒的に不利だ。それに贈物を積んでいるバーモント号も到着していない)」
下で歓声が上がっている。
測深から戻ったボートが収容されている。
コンティ「士官や部下たちは日本人の気質や国土の美しさに有頂天になっておりますな」
それらを眺めるペリー。
ペリー「(実際どこを見てもこれほど絵のように美しい景色はないと言えるほどで、艦上にいる者でさえ周囲の海岸を眺めて飽きることがない)」
美しい海岸線。
山々の美しい緑。
ところどころ見え隠れする村々。
流れる小川。
ペリー「(高度に耕された土地が至る所にあり、あらゆる草木は深く豊かな緑をたたえている。無数のつつましい村々が入り江の奥の林に見え隠れして、それが湾の単調さを破り、小川が丘陵の緑の斜面を流れ落ちて静かに草地をうねる。それらすべてが一つに調和して、美しく、豊かで幸福な景観を作り出す)」
見とれている船員たち。
思わず微笑むペリー。
気を取り直し、
ペリー「よし、艦隊全艦発進準備。行先は香港、その前に琉球に立ち寄る」
コンティ「はっ」
ボッボーと汽笛が鳴る。
発進していくペリー艦隊。
【830】第2話 D2 『松陰、密航決意』≫
○象山宅
書き物をしている象山。
後ろに松陰、思い詰めた表情。
松陰「拙者・・・、拙者が習得します」
書き物に集中し、うわの空の象山。
象山「ん?」
松陰「拙者がきゃつらの技術を習得します、先生」
象山「ああ、学べ、学べ」
松陰「そのためには拙者、異国に行きまする」
象山「ああ、行け、行け、ん?」
書き物から眼を外して松陰を見る象山。
松陰、象山を凝視し、
松陰「異国に行き、この目でしかと学んできたいと思います」
象山「寅、貴様・・・」
その真剣な眼差しに圧倒される象山。
N「寅と呼ばれるこの青年が吉田松陰である。通称寅次郎。長州藩士でこの時佐久間象山の砲術塾の門下生であった。後に明治維新を成し遂げる高杉晋作や桂小五郎、伊藤博文らの師となる。また当時国外に行くことは当然認められていない。遭難した者さえ帰国することが許されない程で、国禁を犯した者は当然重罪に処せられる」
松陰の顔。
象山「そうか・・・」
松陰「・・・」
にやっと笑い、
象山「さすがに寅よ、貴様のその非凡の最たるところはその実行力よ、他の誰にもまねできぬわ」
見つめ合う松陰と象山。
【829】第2話 D1 『米国国書全文』≫
○久里浜海岸
会見場を出ていくペリー達。
N「ペリーの国書全文は以下の通りである」
整列している米兵隊列の中を上陸艇に向かい、歩いていく。
上陸艇に乗り込むペリー。
その様子を井戸や戸田をはじめ、皆が見守っている。
N「偉大なる善き友へ。アメリカ合衆国海軍の最高位士官であり、貴帝国を訪問中の艦隊総司令官であるマシュー・C・ペリー提督に託し、この国書を謹呈する。私は陛下と陛下の政府に最も親愛なる気持ちを抱き、提督派遣については、合衆国と日本が友好関係を築き、お互い貿易すること以外の如何なる意図もないことを、皇帝陛下にはっきり申上げるようペリー提督に命じている」
黒船に向かい進んでいくペリーの上陸艇。
荘厳な会見場。
取り囲んでいる日本の警備兵たち。
N「合衆国憲法と法律は、他国の宗教や政治に関する如何なる干渉も禁じている。ペリー提督には特に、貴帝国の平安を乱す如何なる行為も差し控えるよう命じている。アメリカ合衆国は大西洋から太平洋までつながり、我がオレゴン領とカリフォルニア州は貴帝国に相対する位置にある。我が蒸気船は、カリフォルニアから日本まで18日で航海できる」
【828】第2話 C4 『国書授与式』≫
○サスケハナ・甲板
香山ら3人とブキャナンらが会談をしている。
握手している香山とブキャナン。
N「こうして返答期限の三日目に、国書受理の決定をアメリカ側に伝えた幕府は、二日後に久里浜沖にて国書受領の式典を開くことで合意。ペリー提督以下のアメリカ人の日本上陸が決定した」
○久里浜沖(朝)
燦々と照りそそぐ朝日。
キラキラと反射する水面。
その中を勇壮に進む黒船艦隊。
『嘉永6年(西暦1853年)6月9日』
N「嘉永6年(西暦1853年)6月9日、アメリカ合衆国大統領からの国書を進呈するためにペリー提督は久里浜に上陸した。ペリー艦隊が来日してわずか6日目のことであり、これはペリーの想定よりはるかに早い決着であった」
岬の陰から現れる鮮やかな色彩。
急ごしらえて作られた会見場だが、色鮮やかな陣幕やのぼり、精巧な紋様や絵柄などに、米兵たちは感嘆の声をあげる。 (さらに…)
【827】第2話 C3 『決断』≫
○浦賀湾
測量をしているペリー艦隊の測量船。
その測量船に従って遠巻きに様子を伺っている和船群。
蒸気船が現れて遠ざかったりしている。
○忠優邸の庭(夜)
三日月。
弱々しく輝いている。
庭園が月の光に照らされている。
庭の池には映る三日月が消え入りそうにゆらゆらと動いている。
○同・応接室
読書をしている忠優。
表紙には『外国事情書』と書いてある。
忠優の周りには本が散乱している。
散乱している本には『坤輿図識』一~五巻の他、新鐫総界全図や新訂万国全図などの世界地図も見える。
入ってくる阿部。
忠優「散乱して御免こうむる」
阿部、散乱する本を見てニヤリとする。
【826】第2話 C2 『交戦論』≫
○同・廊下
引き上げている老中陣。
乗全「さすが伊賀殿。逆に御老公の意見に賛成することによって、見事に流れが変わりましたな」
牧野「うむ、あの切り替えしはわしも見事だと思うたわ。これですでに我らの中で決定している国書受理についても御老公に了解を得たも同然、他の諸侯についても言い訳がたつ」
阿部も満足そうな表情。
忠優のみ思い詰めた表情。
忠優「阿部殿、どうだろう。こちらから仕掛けてみては」
一同「!!」
驚く一同。
忠優「先ほどの発言は詭弁ではない。本心を言ったまでのこと」
牧野「な、何を申される。きゃつらの文明に最も精通しているのは貴殿ではないか。きゃつらの兵器の優秀を説いてくれたのも貴殿。貴殿の情報をもとに戦をするのは無謀、との結論に至ったのでござるぞ」
乗全「いったいどういうことで」
阿部「・・・」
立ち止まった忠優、再び歩き出す。
忠優「現在意見ある者の9割9分9厘が夷狄を打ち払うべしと考え、西洋の本当を知る者はほとんどいない」
聞いている3人。
忠優「もし戦端を開けば、戦力の差が一目瞭然となり、その割合は一気に逆となろう。荒療治だがそれが最も早く意識の転換につながるのではないか。それが結果的に最もこの国の発展に有益ではないか、そう思うのだ」
驚く一同。
忠優「それに、御老公の言われた武士のあり方。それを失わせない最良の策であるように先ほど思ったのだ」
一同「・・・」
【825】第2話 C1 『対決』≫
○水戸藩邸・外観
『水戸藩邸』
○同・庭
大きな弓の的。
その的のど真ん中に矢が刺さる。
続けて弓を弾く若武者。
庭では、弓の試射会が行われている。
折り畳みの小さな椅子に座っている斉昭、阿部、忠優、牧野、乗全の老中陣、その他数名の諸侯。
諸侯の中に松平慶永の顔。
牧野「お見事ですな」
斉昭「そうか。だがまだまだこんなものではないぞ」
顔で指示を出す斉昭。
的に黒船の絵が掲げられる。
老中陣「・・・」
黒船の的に向かって矢が射られる。
黒船の中心に突き刺さる矢。
続けざまに連射される矢、次々に突き刺さる。
これでもかとばかりに黒船に突き刺さり、矢で埋め尽くされる黒船。
老中陣「・・・」
ニヤリとする斉昭。
斉昭「近年最高の布陣と言われる聡明なる老中の汝らなら言わずとも知れよう」
表情の引き締まる老中陣。
斉昭「なぜじゃ、なぜ打ち払わない」
老中陣「・・・」
斉昭「なぜ夷狄に我が国を侵されているにも関わらず、座して黙しておる?なぜじゃ」
老中陣「・・・」
斉昭「黒船に怯え、大筒に臆しおって。なんたる軟弱、なんたる無様」
老中陣「・・・」
【824】第2話 B4 『アメリカの要求に対し』≫
○小石川・井戸浦賀奉行役宅
手前に浦賀奉行・井戸弘道が香山から報告を受けている。
奥には、阿部、忠優、牧野、乗全の老中陣や井戸覚弘、若年寄陣がその様子を見ている。
香山「以上、きゃつらの目的はメリケンのプレジデントの親書を上様に進呈することであり、受け入れなければ武力をもって上陸し、受け取らせる、などと言っておりまする。我らは言うまでもなく断固拒否し、長崎に行くように申しておりますが・・・」
弘道「長崎へ行けなどとはもっての他である。メリケンから使者が来ることは以前より承知しておる」
驚く香山。
香山「ど、どういうことです」
弘道「オランダより通達があったのじゃ、メリケンが大艦隊を引き連れて来襲するとな」
ざわつく場。
香山「し、知っておられた、知っておられたのになぜお知らせ頂けなかったのか。秘密にしておられたとは嘆息の限り」
【823】第2話 B3 『水戸御老公、登場』≫
○日本の大自然
緑に包まれた山々、タカなど鳥や狐たち。
森を流れる清流、滝。
タカが偕楽園を眼下に見ながら、神社を訪れる。
佇む鳥居。
○大神宮・外観
茨城県水戸市大神宮。
神楽殿にて奉納が行われている。
○神楽殿
水戸藩士が並んで座している中、巫女による剣舞の神楽が奉納されている。
剣を持ちながら回転剣舞する巫女。
雅楽の厳粛な音楽。
藩主と思われる上位の者以下、神妙に神楽を鑑賞している。
舞が終わり、お辞儀をする巫女、そして氏子、退室する。
それに従い、ぞろぞろと退室する藩士たち。
藩主と思われる初老の老人が籠の前まで来る。
『徳川斉昭』
藩主「よし、いくぞ」
駕籠に乗り、大名行列が神宮から出ていく。
【822】第2話 B2 『初交渉』≫
○御用船上
サスケハナに横づけしている御用船。
船首に三本縞の旗を掲げている。
船には香山栄左衛門(32)、達之助、別の通訳らが乗っている。
香山「どうだ」
達之助「乗船許可が下りました。しかし同時に3名までしか乗れません。それに・・・」
香山「なんだ」
達之助「この地の奉行ということなので、もし香山様が与力だということがばれたら・・・」
香山「よい。わしが全責任を負う。いくぞ」
達之助「・・・」
達之助に頷く香山、決死の覚悟。
下ろされたタラップを登っていく香山、達之助、もう一人の通訳。
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