9月2020
【982】第12話 B2 『横浜開港』≫
○横浜沖
進む米国船、湾を抜け横浜沖に入っていく。
向こうから見えてきた港。
大きな桟橋が2本。
大きな税関の建物を中心に向かって右側には巨大な町が出来上がっている。
左側は広大な空き地。
ハリス「おお」
驚くハリス。
副領事のドール
ハリス「こ、これは」
ドール「何を驚いているのです」
ハリス「ド、ドール君、わずか3か月前には何もなかったのだ、この横浜とは何もない寒村だったのだ・・・、夢か幻か。いったいどんな魔法を使ったというのか・・・」
『横浜』
ドール「オリエンタルマジック、東洋の神秘というやつですか」
横浜港を見つめる二人。
○横浜・全景
造成されたばかりの横浜港。
そこだけが周囲の自然あふれる風景とは異なり、近代的な雰囲気を醸し出している。
『安政6年(西暦1859年7月1日)6月2日』
来航している船が5隻見える。
N「安政6年(西暦1859年7月1日)6月2日、横浜が開港した。ここに何もない寒村であった横浜の地に日本最大の国際都市が誕生した瞬間だった。この日、アメリカ公使に昇格したハリスとイギリス総領事オールコックが入港した。また商船ではアメリカの副領事E・M・ドールが代理人を務めるオーガスチン・ハード商会のワンダラー号176トンが民間商船の横浜入港第一号となった」
【981】第12話 B1 『開港前夜』≫
○江戸湾内
進む米国船。
『安政6年(西暦1859年)6月1日』
船にはアメリカ国旗。
○アメリカ艦船・外観
声「横浜?」
○同・甲板
ハリスと副領事ドールが話している。
ドール「神奈川じゃないのですか?」
ハリス「そうだ、条約に神奈川と明記されているにも関わらず、開港地は横浜だというのだ、一方的にな」
ドール「どういう魂胆なのでしょう」
ハリス「横浜は山や川に囲まれた僻地だ。しかも東海道ロードや神奈川シティから離れた寒村、何もない場所だ。つまり日本は江戸の開港地も長崎の出島のように隔離しよう、という考えなのだろう」
ドール「それはひどい」
ハリス「さらに困ったことがある。岩瀬と井上がいなくなったのだ。非常にやりにくくなった」
ドール「どういうことでしょう。方針が変わったのでしょうか」
ハリス「分からん・・・」
【980】第12話 A4 『快挙達成』≫
○品川沖
旗艦フュリアス号、レトリビューション号、リー号と快速船からなるイギリス艦隊が品川沖に停泊している。
『7月18日』
○イギリス旗艦フュリアス・外観
声「貴殿らが会ったのか」
○同・応接室
5人とイギリス一行が会談している。
水野「はい。私とこちらの永井とでスターリング提督と会い、日英和親条約を締結しました」
永井「懐かしいです。もう4年前になりますか。その後、私は海軍を任されまして。ようやく蒸気船も操縦できるようになったところです」
エルギン卿「そうか。貴殿らがスターリング提督と・・・。だからボウリング卿のこととかいろいろ詳しいのじゃな」
岩瀬「私とこちらの井上がハリス殿と日米修好通商条約を締結しました」
オリファント「なるほど。岩瀬殿なら条約締結も納得です。井上殿は開港場の下田責任者・・・。堀殿は何をされているのです?」
堀、西洋式の要塞の図面を見せる。
堀「私は函館奉行としてこちらの要塞を以てして、北方防衛を担当しています。ロシアのプチャーチン提督とも交渉しました」
オリファントとエルギン卿が要塞の図面を見て顔を見合わせる。
エルギン卿「・・・」
オリファントがひそひそと話しかける。
オリファント「いかがしますか、日本側の条約案ですが。交渉はわずか3回しかしておりませんが」
エルギン卿「さしあたりアメリカにスタンドプレーをさせねばよい。条約内容はアメリカと同等であるなら問題なかろう。わざわざ長く居座っても無益だ」
エルギン卿、立ち上がって手を差し伸べる。
エルギン卿「日英修好通商条約案はこれで結構だ。この後調印しよう」
5人「おお」
水野、立ち上がりエルギン卿と握手する。
【979】第12話 A3 『5人の外国奉行』≫
○品川・東禅寺・外観
陰幕が張られ雅な装飾がされた応接所。
『7月13日』
○同・内
西洋式のテーブルとイスが用意され、真っ白のクロスが敷かれている。
入室してくるイギリス一行。
英国一行、その西洋スタイルに驚く。
エルギン卿「こ、これは・・・」
水野が手を差し伸べる。
水野「ハウドゥユードゥ。マイネームイズ、タダノリ・ミズノ。ナイスツゥミーチュウ」
エルギン卿「お、おお」
戸惑いながら握手するエルギン卿。
水野「エルギン卿でいらっしゃいますか。ボウリング卿が来日すると聞いてましたが。それに艦数は4隻だけですか?」
エルギン卿に説明するオリファント。
オリファント「日本側はボウリング卿が来る予定だったのを知っていました。艦数ももっと多かったはずだと言っています。まさかこちらの状況をここまで分かっているとは」
エルギン卿、対抗しようとする。
エルギン卿「北京には20隻以上の艦隊で襲来した。江戸にも呼ぼうと思えばすぐに何十隻も集めることができる」
5人、クルシウスやハリスらとの交渉でブラフには慣れているので、表情を変えない。
岩瀬が、扇子にスラスラと横文字を描く。
それを5枚、エルギン卿に渡す。
岩瀬「我らですが、左から、永井玄蕃、井上信濃、水野筑後、岩瀬肥後、堀織部です」
オリファント「貴殿は英語ができるのか」
岩瀬「話すことはまだ苦手ですが書くことはできます。オランダ語の方が得意です。もっとも、少し前まではアルファベットを見たこともありませんでしたが」
オリファント「そんな短時間に・・・。グレート」
【978】第12話 A2 『島津斉彬、倒れる』≫
○御用部屋
大老直弼を始めとする老中陣、乗全、脇坂、新老中の太田資始、間部詮勝。
乗全「エゲレスがついに来ましたな。いったいどのようになさるおつもりですかな」
嫌味を言う乗全。
脇坂「なんという他人事の言い草。あなたも幕閣である以上、一蓮托生でございまするぞ」
乗全、鼻で笑う。
乗全「わしはいつでも責任をとる準備はできておる。だが、覚悟が必要なのはここにいる全員なのではござらんか。やはり御三家・御家門を処分している場合ではなかったですな。われら譜代だけではどうにもなりませぬぞ」
脇坂「くっ」
『太田資始』
太田「乗全殿、そのくらいにされよ。上様もなくなり、我らが争っていたら公儀は崩壊してしまうぞ」
『間部詮勝』
間部「井伊大老、どのように致しましょう」
直弼、険しい顔。
直弼「・・・」
鋭い顔で直弼を睨む乗全。
乗全「まぁ、幸か不幸か8日の5人の外国奉行就任人事はそのままでしたからな。あの5人に一任すれば何とかしてくれるかもしれぬ。だが、うまく進めたとしても、それはこの首脳陣にとっては『不幸』となるかもしれませんがな。はっはっは」
直弼、苦々しい顔で乗全をにらむ。
【977】第12話 A1 『イギリス艦隊、襲来』≫
○神奈川・全景
『神奈川』
オランダ国旗とロシア国旗の軍艦2隻が停泊している。
『7月11日』
○同・奉行所
井上と岩瀬、プチャーチンと握手している。
岩瀬「これで無事に日露修好通商条約を締結することができましたね、プチャーチン提督」
プチャーチン「長かった。私にとってしたらこの日が来るのをどんなに待ったことか」
思わず涙ぐむプチャーチン。
井上「提督はペリー提督より前から来日していますからな。それに大震災の大津波によってディアナ号も失ったし」
プチャーチン「ロシア人と日本人が力を合わせて小さいながらも軍艦ヘダ号を作った。そのおかげでロシアに帰ることができた・・・。出航する時の日本人の人たちの悲しんでくれる姿を私は生涯忘れることはない」
岩瀬「日本人の救助もしていただき、改めて御礼申し上げる。川路殿もプチャーチン殿に会いたがっておりました」
プチャーチン「川路殿か。懐かしいの。こうして条約も締結されたのだ。また会えることを期待している」
岩瀬「庭にパーティの準備がしてあります。クルシウス殿もお呼びしていますので、どうぞ庭まで」
○同・庭
3人にクルシウスを交えて4人で飲んでいる。
クルシウス「昨日の日蘭修好通商条約、そして本日の日露修好通商条約締結に乾杯」
一同「乾杯」
【976】第11話 D4 『崩御』≫
○江戸城・外観
『7月5日』
○江戸城・家定寝室・内
中央の布団に家定が横になっている。
布団の周りには6人の奥医師たち。
後ろに側役である石河と側役Aがいる。
医師が家定の脈を取っている。
脈を取っている医師が首を横に降る。
家定の顔に白い布がかけられる。
石河「・・・」
呆然とする石河。
冷たく石河を見る側役A。
○忠固邸・門
○同・応接間
阿部の脇差が床の間に置かれている。
忠固が石河、本郷と面会している。
脇に水野。
石河「う、上様が先ほど・・・、お亡くなりに・・・」
忠固「な・・・」
【975】第11話 D3 『挙兵』≫
○鹿児島
噴煙を上げる桜島。
鶴丸城が見える。
声「なに、条約を締結しただと」
○鶴丸城・内
桜島を天守から眺めている斉彬。
脇に控える西郷。
使い「去る6月19日です。23日に堀田備中守・松平伊賀守、両名が老中罷免、24日に御老公・越前慶永様、抗議のため不時登城、25日に紀州様が御継嗣と発表・・・」
斉彬「・・・。そ、そこまで急展開しおったか。伊賀守が罷免だと?では堀田も罷免となると誰がこれらを主導しておるのか」
使い「全て台慮の名で行われております」
斉彬「上様の・・・?、それはおかしい。少なくとも上様が伊賀守を罷免するはずはない・・・」
少し考えたのち、西郷を見て
斉彬「西郷、お主はどう見る?」
西郷「恐れながら。動いているのは大老井伊掃部守かと」
斉彬「うむ、何故じゃ」
西郷「条約無断締結を理由に堀田様、実際は伊賀様から実権を奪い、さらに不時登城を誘発させ御老公や越前様を断罪する。すべては陰謀やもしれませぬ」
斉彬「まさかそこまでは。井伊など異国と渡り合えるような器はないぞ」
西郷「ですが、権力に対しては並々ならぬ野心があると見ますが」
斉彬「・・・」
桜島、ぼこっと噴火する。
その噴火にも慣れたもので皆動じない。
斉彬「やるか・・・」
西郷「はい?」
斉彬「武力を以て、江戸に上府する」
西郷「!」
西郷に向き直り
斉彬「まだ御継嗣が御相続されたわけではない。不時登城の処分もすぐではなかろう。急ぎ武力上府の準備にかかれ」
西郷「ははぁ」
すばやく退室する西郷。
再び噴火する桜島をみる斉彬。
【974】第11話 D2 『謹慎隠居』≫
○江戸城・外観
『安政5年(西暦1858年)7月1日』
乗全の声「ご、ご危篤・・・」
○同・御用部屋
乗全と久世、直弼と脇坂、間部ら老中全員が集まっている。
乗全「上様が・・・」
久世「奥医師はそう言っている」
沈痛な乗全と久世。
直弼、冷静な表情で脇坂に目で指示。
脇坂「先日の不時登城に対する処分ですが、上様が存命のうちに発した方がよろしいかと存ずるが」
乗全「なっ」
久世「上様がご重体であらせられるのに、処分を発表するというのか。それも御老公と水戸・尾張という御三家当主に対し・・・」
脇坂「逆にご存命だからこそ行うのです。申し上げたくはないがもし上様が亡くなりでもしたらもう処分などできなくなる。そうなれば、もはや混乱の極地に陥るは必定」
久世「だ、だが・・・」
乗全「し、処分とはいかなるものか」
脇坂、直弼の方を見る。
直弼「御老公、尾張慶勝殿、越前中将殿は謹慎・隠居」
久世「謹慎・隠居・・・」
乗全「家督を継嗣に譲って引退、ということか・・・。御老公はともかく慶勝殿と慶永殿はまだお若い。それはさらに争いの火種になるぞ」
直弼、遮るように
直弼「不時登城は重罪。それは御三家だからといって不問にしたら法や律は全く守られぬものとなりましょう」
乗全「そ、それは・・・」
直弼「台慮を以て行えば文句はあるまい」
乗全、ハッとなり
乗全「それだ、大老殿はそうして台慮を私物化してないか。それは上様の意ではないではないか!」
直弼「上様が応えられる状態でないからこそ、御継嗣の発表を急いだのではないか。この上は徳川宗家御相続の準備も急ぎ、変事に備えるが得策である」
乗全「な・・・」
【973】第11話 D1 『継嗣発表』≫
○江戸城・大広間
『6月25日』
大勢の諸侯が居並ぶ中、直弼はじめ幕閣たちが台慮を発表している。
役人「徳川宗家の御継嗣は、紀州慶福様と決定いたした。これは台慮である」
ニヤリとする直弼。
○各・屋敷・内
水戸藩邸、尾張藩邸、越前藩邸にそれぞれ謹慎している斉昭・慶勝・慶永。
継嗣発表の報を聞き、怒りに震える
斉昭「おのれ、掃部守・・・」」
慶勝「なんと滅茶苦茶な・・・」
慶永「ゆ、許せん、まだあきらめんぞ」
○忠固邸・外観
○同・内
石河が病床にふしている。
横で見舞っている忠固と乗全。
石河、忠固らに気付き、起きようとする。
石河「も、申し訳ございませぬ。報告に来た身でありながら」
忠固「何を言うか。病身でありながら役目を果たすとはあっぱれだぞ、石河」
一瞬、にこりとするが、すぐに険しい顔になる石河。
石河「ご、御前・・・、う、上様は・・・」
忠固「安心せい。倒れられたが直に良くなる、との見立てだ。脚気による衝心らしい」
乗全「お主も養生してはよう復帰せい」
石河「ち、違う・・・。う、上様は狙われている。上様が危ない」
顔を見合わせる忠固と乗全。
忠固「では上様は脚気ではなく、毒を盛られた、というのか」
石河「はい。上様自身がお気づきになられ・・・」
ごほごほと咳き込む石河。
忠固「ま、まさかお主も・・・」
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