【822】第2話 B2 『初交渉』≫
○御用船上
サスケハナに横づけしている御用船。
船首に三本縞の旗を掲げている。
船には香山栄左衛門(32)、達之助、別の通訳らが乗っている。
香山「どうだ」
達之助「乗船許可が下りました。しかし同時に3名までしか乗れません。それに・・・」
香山「なんだ」
達之助「この地の奉行ということなので、もし香山様が与力だということがばれたら・・・」
香山「よい。わしが全責任を負う。いくぞ」
達之助「・・・」
達之助に頷く香山、決死の覚悟。
下ろされたタラップを登っていく香山、達之助、もう一人の通訳。
○サスケハナ・甲板
応対したのは、ブキャナン中佐、アダムス参謀長、コンティ大尉。
ペリーは出てこない。
一方の香山は高位らしい服装で、豪華な絹の上衣には孔雀の羽に似た模様が刺繍してあり、金と銀の縁取りがしてある。
3対3で向かい合い椅子に座っている。
ブキャナン「あなたがこの地の総督か」
香山「・・・。いかにも」
冷汗顔の達之助。
香山「あなたがこの艦隊の責任者か」
ブキャナン「私は艦隊の最高責任者ではない。艦隊司令長官のペリー提督は日本帝国の閣僚以外とは応接しない」
三人「・・・」
香山「いったい何が目的か。いずれにしろ、この地では異国との交渉をすることはできない。貴殿らは長崎に向かうべきである」
ブキャナン「我々は長崎には行かない。我々が断じてそのような取り決めに応ずることはない。我々の目的は、この地で合衆国大統領の親書を日本皇帝に渡すことであり、親書を手渡す義務を帯びているペリー提督は皇帝宛ての文書を受け取るにふさわしい人物に奉呈するのだ」
香山「日本皇帝?・・・」
達之助「親書・・・」
通訳「そ、そんなことできるわけが・・・」
ブキャナン「もし不同意なら、仕方がない。いかなる結果になろうと十分な武力をもって上陸し、実力を以て手渡すのみである」
周囲を見渡す三人。
三人「・・・」
巨大な大砲をはじめとする近代兵器に、銃装備した水兵達に囲まれている。
香山「わ、分かり申した。これについては我らの権限をはるかに越えている。江戸に報告し訓令を仰ぎたい。ついては、返事を受け取るまで4日かかるので、4日後に返答したい」
それを受け、話し合う米国側3名。
コンティ大尉が退席する。
○同・提督室
パイプの煙。
ペリーがパイプをくわえながら、椅子に座っている。
ペリー「4日!?、蒸気船ならば1時間で行ける距離だぞ」
報告しているコンティ。
考えるペリー。
ペリー「よし。では、彼らにはこう言ってもらおう。我々の要求に対する返答の期限は3日以内とする。もし3日以内に返答がない場合は・・・」
コンティ「返答がない場合は」
ペリー「我々はこのままさらに進む、江戸まで、とな」
にやりと笑うペリー。
○同・甲板
帰っていく香山らを乗せた御用船。
それを見下ろすブキャナンら。
そこへ後ろからペリーがやってくる。
ペリー「ご苦労だったな」
ブキャナン「はっ」
ペリー「で、どうであった?」
ブキャナン「とにかくこちらの要求は伝えました。ただ向こうははっきりと顔には出しませんが相当驚いていたと思われるので、彼らにとっては非常に困難なことなのかと」
ペリー「うむ」
周囲を見渡すペリー。
艦隊の周りには、相変わらず和船が包囲している。
兵士の他に、船をたくさん写生している絵師もたくさん見える。
船のイラスト、水兵たち、大砲、服装などありとあらゆる写生。
陸地に目を移すと大砲が見える。
陸地で包囲する兵士達。
問いかけるペリー。
ペリー「中佐はこの国の軍備をどう見る」
ブキャナン「そうですね。あれらに見える大砲は全く問題にはなりません。実用的には見えませんし、たとえ発砲したとしても、艦隊には全く届かないでしょう」
ペリー「うむ」
ブキャナン「この江戸湾や他より充実していると思われる長崎の砲台ですら児戯の類にすぎません。艦艇から砲撃する必要もないでしょう。十分に武装した短艇2,3隻で臨めば、制圧できぬものはおそらく日本全土にはありますまい」
ペリー「うむ」
岬の砲台や取り囲む和船をみるペリー。
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