開国の父 老中・松平忠固

【916】第8話 A4 『城代縞』≫

○大坂
そびえ立つ大阪城。
『大坂』
大坂城下の町の賑わい。
『弘化2年(西暦1845年)』
大勢の人が行き交い、大阪弁が飛び交っている。

 

○上田藩・産物改所
人々が行列をなしている店構え。
上田縞・上田紬という看板。
店の奥では反物や着物がずらりと並び、人々が品定めをし、店員が走り回って対応している。
その様子を見ている藤本善右衛門縄葛(30)と鴻池善右衛門(40)。
声「すごい人気だな」
二人が振り向くと立っているのは忠優。
縄葛「えー、あ、貴方様は」
驚く縄葛。

 

○同・客間
上座に忠優を迎える縄葛と鴻池。
忠優「久しいな、つなね」
縄葛「この度は大阪城代ご就任、誠におめでとうございます。ご挨拶が遅くなり申し訳ございませぬ」
忠優「そんなことはよい。上田で忙しいお主じゃ。今日はお主が来ているので参ったのじゃ」
縄葛「かたじけのうございまする」
鴻池「御城代様、鴻池善右衛門でございます」
『鴻池善右衛門』
忠優「うむ、本日そなたを呼んだのはぜひ縄葛の説明も聞かせたかったからじゃ」
鴻池「ははー」
忠優の手元に出されている生糸。
『又昔』『青白』『信州かなす(掛合)』の3種類ある。
忠優「うむ、して、これがうわさの生糸の新種か」
縄葛「はい。右が従来品種の又昔。真ん中が父が開発した黄金生・別名青白。そして左が私が作りました新品種、掛合・別名信州かなすでございます。夏蚕と春蚕を掛け合わせた品種で虫に強く、阻害にかかりにくいので飼育成績が抜群に優れています」
忠優「それはすごいな。直売所を開設以来、すでに青白がすごい人気じゃ。さらに人気も出よう。お主もここへきて驚いたろう」
縄葛「はい」
忠優「鴻池よ、どうじゃ」
鴻池、信州かなすを手に取り
鴻池「紬は庶民に許された唯一の絹織物。紬に寄せる庶民の夢はそれは大きいものでございます。それに今や上田の生糸は日の本一。これだけの品質であれば、そりゃあ大阪でも売れますやろなぁ。こちらからすすんでご融資させてもらいましょ」
忠優「うむ」
縄葛、心配そうに
縄葛「天保年間の桑園開発でだいぶ借財がかさんでいると聞いておりますが、殿・・・、大丈夫でしょうか・・・」
忠優「心配するな。そうして築き上げてきた上田の生糸を一気に花咲かせる時が来たのだぞ。大坂を制せば全国を制す。天下に上田の名をとどろかせることができようぞ」
ぼーっときいている縄葛。
涙がボロッとこぼれる。
縄葛「ありがたき、ありがたき幸せ。我々養蚕に従事する者達、これまで飢えを耐え、ひたすら頑張ってきた者達全員に聞かせたいお言葉です」
微笑む忠優。

 

○同・売り場
上田紬の売買の様子。
N「上田の生糸は京都西陣の最高級品に使われ、上田縞・上田紬は庶民に許された唯一の贅沢である紬の良品として庶民に愛され、大阪城代のおひざ元ということで『城代縞』と呼ばれた。ちなみに上田藩に金3975両を融資した豪商・鴻池善右衛門幸実の子・ 幸富(ゆきとみ)は明治10年(西暦1877年)第十三国立銀行を設立。三和銀行を経て現在三菱UFJ銀行となっている」

 

○大阪城
馬で大阪城に入っていく忠優。
N「大阪城代を3年務めた嘉永元年(西暦1848年)、忠優は老中に就任することになるのであった」
そびえたつ大坂城。

 

 

 

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