【946】第10話 A2 『交渉開始』≫
○蕃書調所・外観
安政4年(西暦1857年)12月4日』
○同・内
井上・岩瀬とハリス・ヒュースケンが会談している。
お互いに、書状を確認している。
ハリス「結構。井上殿と岩瀬殿が条約交渉の全権大使ということ、確認した。これでようやく正式な交渉に入れるな」
岩瀬「では、互いに全権の委任状の照合を終えたので、これから条約交渉に入ることとします。ついては、通商条約の基本としてはオランダ・ロシアとの和親追加条約の線で取り決めたいと思っております。すなわち、開港場は長崎・下田・函館とし、その地に交易場を設け、内外人とも品物を持ち寄り、互いに入札して取引する方法を取る、ということでござる」
ハリス「・・・」
ハリス、パイプに火をつけ、大きく吹かす。
ハリス、ヒュースケンに顔で指示。
その指示に基づいてヒュースケンがオランダ語で書かれた書類を出す。
ハリス「こちらで条約の草案を作ってきた。和訳し、よく検討しておいてもらいたい」
渡された草案をパラパラとめくる岩瀬。
ハリス「日米和親条約第9条による最恵国条項により、オランダ・ロシアに与えられている権利は既にアメリカも有している。岩瀬の話したことは既に協議する必要はない」
岩瀬・井上「・・・」
岩瀬、オランダ語の草案を読みながら
岩瀬「個人がフリーに売買する・・・、それは役人の仲介なしにアメリカ人は品質や価格の最も気に入った店で買い、自分の希望する者に売る・・・、ということか」
ハリス「自由貿易と矛盾する専売制度や倹約令については、日本国政府は即撤廃すべきである」
井上、岩瀬、先手を取られ焦りの色。
岩瀬、さらに草案を読み進め、驚く。
岩瀬「こ、これは開港場か・・・」
ハリス、ヒュースケン、にやりとして
ハリス「そうです。開港場として、函館・大坂・長崎・平戸・京都・江戸・品川・本州西海岸の二港、九州の炭鉱付近の一港とする。下田は江戸及び品川が開港されたら閉鎖する」
岩瀬、驚き
岩瀬「ば、ばかな。そんなに一度に開港できるわけがなかろう。江戸・品川・大坂・京都は論外だ」
井上も無表情を装うも動揺を隠せない。
再びパイプをふかすハリス。
高圧な態度。
井上「・・・」
岩瀬「・・・」
○江戸城・勘定部屋
勘定方が全員座って話を聞いている。
忠固が訓示を述べている。
その中には勘定奉行川路、前勘定奉行の石河と水野もいる。
忠固「いよいよ通商交渉が始まった。この交渉は幕府を生まれ変わらせる起爆剤となる。なぜなら通商・交易によって莫大な関税収入が得られるからだ。我の見立てでは年貢収入を超える税収が得られるはずだ」
どよめく一同。
忠固「焦点は関税が何割になるか、ということになるかと思う。これまでわが幕府の全歳入の確認をしてもらっていたが、各担当、どの品目にどの程度税をかければこのくらい増収するのか、計算するのだ」
みな、状況を把握している。
川路「お任せ下さい。勘定方一同、この時を待ち望んでおりました。家柄が全てを決める城内で唯一、この勘定方だけは実力主義。能力さえあれば出世することができます。ここに集いし者たちは全て高い能力によってここまで上り詰めてきた者たち。きっとご期待に添えることとなりましょう」
忠固「うむ。頼んだぞ」
一同、平伏する。
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