【957】第10話 D1 『井戸覚弘、死去』≫
○江戸・通り(夜)
井戸覚弘が歩いている。
井戸「む」
井戸の気配を感じる目。
手裏剣が飛んでくる。
居合抜きでそれらの手裏剣を弾く。
静かに現れる数名の忍者、井戸に切りかかる。
が、それらをいなす井戸。
井戸を倒せぬと悟った忍者、退却を始める。
井戸「待て」
去っていく忍者と入れ替わりに飛んでくる吹き矢。
それを手で受け止める井戸。
井戸「・・・」
去っていく忍者を見る井戸の手からは鮮血がしたたり落ちている。
○忠固の屋敷・外観
忠固の声「井戸が死んだ?」
○忠固の屋敷・内
石河が忠固に報告している。
悔しそうにわなわな震える石河。
忠固「な、なにが?」
石河「数日前に何者かに襲われ、その時の毒傷のせいだと思われ・・・」
忠固「・・・」
石河、しばらくの躊躇の後
石河「御前が条約交渉で忙殺されていたのでご報告がまだでしたが、井戸はハリス登城時に起きた床下の変死事件を捜査していました。生前漏らしておりました、あれは事故死ではない、殺人だと」
忠固「・・・」
石河「まだ確証はないが将軍継嗣問題に関わっているようだと・・・」
考え込んだ後、
忠固「・・・、とにかく井戸の残された家族にはよく気を配ってやってくれ」
石河「・・・、はい」
○庭
ハナミヅキが咲いている。
○忠固の屋敷・内
忠固「間もなく首座殿が江戸に帰府する。その際、帝から将軍継嗣の勅命を持ってくる」
石河「継嗣の勅命・・・?、条約締結でなく?」
頷く忠固。
石河「継嗣・・・、それは徳川家の問題であり、しかも上様が決めること。そんなことをしたら」
忠固「そうだ。徳川家の無能、幕府の体たらくをわざわざ京に吹聴して回ったようなものだ」
石河「そもそも条約の勅許はどうなったのです?」
忠固「そっちは得られなかったらしい」
石河「!」
石河、驚く。
石河「そ、それは・・・、大変な失態ですな。なんだか取り返しのつかないほどの大失態のような気が・・・」
忠固「思えば、阿部殿がいたからこそ、これまで盤石にやってこれたのだな、今改めて痛感する。阿部殿の存在の大きさを・・・」
石河「御前、もはや条約の内容は妥結しています。堀田殿も帰府したらすぐに老中首座を自ら辞任するでしょう。そうしたら次席である御前が老中首座となり、幕府を立て直していくことになります。前向きに考えれば、御前の道が開けた、と捉えればよろしいでしょう」
忠固「・・・」
それには反応しない忠固。
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