【965】第11話 B1 『相撲観戦』≫
○浅草
下町の賑わい。
○浅草寺
大勢の見物客が見守る中、相撲が行われている。
幕府の侍の中に、一緒に観戦しているハリスとクルシウス。
力士の豪快なぶつかり合い。
ハリスとクルシウス『おお』などと言いながら興奮して見入っている。
クルシウス「相撲は初めてですかな、コンシェル。驚きでしょう」
ハリス「噂には聞いてましたが、私はダメですな。ぶくぶくと肥満して気色悪い。ボクシングの方がよほどスマートです」
四股を踏んでいる大関小柳。
クルシウス「ははは。御覧なさい。あれが大関コヤナギです。ボクシングヘビー級で言うところの、トム・クリップやトム・ハイヤーズのごときチャンピオンですよ」
ハリス「まさかカピタンはあの相撲レスラーの方がトム・クリップより強いというのではないでしょうね」
クルシウス「侮れないと思いますよ。実際ボクシングが日本の柔術に負けたところを見たことがあります」
あっと慌てて口をふさぐクルシウス。
がっぷり組んで、豪快な下手投げで相手をぶん投げる小柳。
ハリス「おお」
楽しんでいる二人。
○喫茶室
少し離れた天蓋のあるところで、ハリスとクルシウスを歓待する岩瀬と井上。
クルシウス「いやはや迫力でしたな。コンシェルは相撲レスラーとボクシングヘビー級チャンピオンを戦わせたい、と言っておりますよ」
ハリス「条約が締結すれば、それも叶うことでしょう」
岩瀬「締結日が7月27日で内定ということでいよいよですね」
ハリス「今度こそ延期はなしですぞ。私は一度上海に戻らなければなりませぬからな。だが、ちょっと気になることがある」
岩瀬「なんでしょう」
ハリス「開港場が長崎と函館、もう一つは神奈川のはずだが」
岩瀬「いかにも」
ハリス「だが、神奈川のはずが実は横浜である、という話がある」
岩瀬「・・・」
ハリス「横浜は何もない寒村。貿易を始めるのだ、栄えている宿場町である神奈川でないと意味がない。そこの約束はきちんと果たされるのでありましょうな」
岩瀬「そ、それはもちろん」
井上「横浜も神奈川の隣。別に問題はないと思いますが」
ハリス「大ありだ。横浜は街道からかなり離れている。山に囲まれ、ひと山越えるのも容易ではない。そんなところは不便すぎて貿易には適さない。そもそも横浜には街さえないではないか。話にならん」
岩瀬「分かりました。よくよく精査します」
ハリス「まったく。頼みましたぞ。油断も隙もありはしない」
プンプンしているハリス。
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