開国の父 老中・松平忠固

映画ドラマ脚本

【890】第6話 C2 『反抗』≫

○奉行所・御白洲
井戸が審議している。
板間には象山。
井戸「其の方、十年来厚く国家のため外寇を患え、ついにこの度のことに及んだ段、その志は感心なり。さりながら、重き国禁を侵す段は恐れ入るか」
象山、きっぱりと
象山「わたしは国禁は犯していない」
かすかに、あちゃーとなる井戸。
井戸「松陰は認めておるぞ、弟子が認めておるのに、師たる其の方は認めぬのか」
象山「認めません。なぜなら国禁は既に国禁ではないではありませぬか」
井戸「なにぃ」
象山「ジョン万次郎です。あの者は漂流によって国禁を侵したのにもかかわらず、幕府に通辞として召し出され、いわば『官許』となった。ですから私は寅次郎らには、ジョン万次郎に倣って風に任せて漂流したという形を取りなさい、とは言いました」
ピクッとなる井戸。
象山「それは国禁を侵したことにはなりますまい」
井戸、表情が変わる。
井戸「おい、それを言うか、佐久間」
象山「言いますとも。万次郎が官許されたということは、海外に渡航することも探索の人を送ることもいずれ官許になるだろう。だがまだ正式でない以上、万次郎と同じように漂流の形をとる、それは国法に準じたという思いはあっても、背いたつもりは毛頭ありません」
井戸「ばかもん!!」

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【891】第6話 C3 『切腹』≫

○間宮海峡
ロシア船1隻が3隻の船に追われている。
3隻はイギリス国旗を掲げている。

 

○イギリス艦・艦橋
副官が司令官に報告している。
副官「前方の国籍不明の艦船は停船命令に従わず逃亡を図っております」
司令官「ロシア艦だな。追いつめて補足するぞ」
副官「この先はタタール湾、行き止まりですので袋の鼠です」

 

○ロシア艦・艦橋
副官がネヴェリスコイに報告。
副官「イギリス艦、追ってきません」
ネヴェリスコイ「ふん。奴らはサハリンは半島、ここタタールは湾だと思っているのだ。追っては来まい」

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【892】第6話 C4 『音吉』≫

○長崎奉行公邸・門
英国一行が門を入っていく。
音吉の緊張した表情。
音吉「・・・」

 

○長崎奉行公邸・応接室
水野と永井が座っている。
相対する英国一行。
どちらとも口を開かない。
音吉、ちらりとスターリングを見る。
スターリングは相手の出方を見てやる、という態度でふんぞり返っている。
音吉、しびれを切らしてスターリングに何か話しかけるが、手で追い払われる。
音吉「・・・」
永井が水野に耳打ち、水野頷く。
水野、いきなり話し始める。

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【893】第6話 D1 『大日本帝国』≫

○江戸城・外観
声「大ブリタニア王国?」

 

○同・将軍謁見の間
家定に謁見している閣僚陣。
阿部、忠優、牧野、乗全がいる。
家定「大ブリタニア王国とはどこの国じゃ」
牧野「エゲレス国にございます」
家定「何をいっておる、エゲレスはエゲレスであろう」
牧野「はい。大ブリタニア王国とはそのエゲレスの正式名称にござりまする」
家定「お主はバカか。そのブリタンンをどう略したらエゲレスになるのか、そうか、わかったぞ。余をバカだと思って適当なことを言っておるのだろう」
牧野「めめめ、滅相もない。こちらの地図にもある通り、エゲレスは現在、世界最大の領土を誇る超大国。元々はエングランドという侯国から始まり、ブリテン島全島を天下統一しブリタニアになったとのことです」

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【894】第6話 D2 『安政大地震』≫

○江戸の町
江戸八百八町。
『嘉永7年(西暦1854年)11月4日』
江戸城も見える。

 

○江戸城・御用部屋
執務をしている忠優や阿部。
ガーンと雷が落ちたような轟音。
建物が突然上下に大きく揺れる。
忠優「おおっ」
阿部「じ、地震」
あちこちで叫び声。
大奥から女の悲鳴。
物が落ち、壊れる音。
瓦が落ち、小屋が崩れ、門が傾き、石垣が崩れた。
忠優や阿部、建物から庭に出る。
忠優「でかいぞ、これは」

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【895】第6話 D3 『日露和親条約締結』≫

○江戸城・老中部屋
阿部・忠優・斉昭に報告をしている堀と川路。
阿部「堀織部、よく戻ったな」
堀「帰府そうそう御目通り頂き、恐悦至極。しかし北方の状況は一刻を争います。北方の防備はまるで皆無と言っても過言ではありません。であるのに、異国船、特にロシア艦船の往来はげしく、上陸し占領しようと思えばあまりに容易に成し遂げられましょう。一刻も早く北の守りを固める必要があります」
斉昭「蝦夷地防備など分かりきっておるわ。わしなどとうの昔から進言しておる。奉行を増やし、大阪城代・若年寄格の人物を派遣しろと・・・」
堀「身分や地位で治められるものではありません。寒冷不毛の地、江戸で殿さま育ちでは住むことさえできませぬ」
斉昭「ぐっ、き、きさま。なんたる口を・・・」

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【896】第6話 D4 『嫌な予感』≫

○薩摩藩邸
斉彬、慶永、宗城、西郷を前に藤田東湖が報告をしている。
斉彬「ロシアとも条約を締結したと」
東湖「最新の情報です」
西郷「殿、はばかれたでごわす。阿部様は殿に真っ先に情報を提供してくれるとおっしゃりました。やはり信用できぬ方ではありませぬか」
斉彬「・・・」
さみしげな表情の斉彬。
斉彬「西郷、お主、そう思うか」
西郷「・・・」
西郷、斉彬の気持ちを察する。
西郷「これはおいの言葉が間違っておりました。阿部様は信用できる方にござります。報告はすぐにこちらにも来るでしょう。遅くなるのはやむを得ませぬ。なにせ政策決定の場にいる訳ではありませぬから。これを変えたければ自らが政策決定の場に参加できるようにしなければならぬでしょう」
東湖「西郷君、それはあまりに非現実的な空論であるな。外様の薩摩殿が政策決定に加わるなど天地がひっくり返ってもありえぬこと。副将軍家である水戸徳川家でさえこの二百余年の幕府の歴史の中で初めて大殿が公儀参加がかなったのでござるぞ」
斉彬「いや・・・」
東湖を制する斉彬。
斉彬「それしかあるまい。わしはそれをやってのける所存である」
一同、斉彬の迫力に圧倒される。
西郷は誇らしい表情。

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【897】第7話 A1 『京』≫

○京都
『京』
安政内裏と言われる京都御所が再建されている。
『安政元年(西暦1855年)師走』
雅な京都の風景。

 

○江戸
頑強な江戸城の風景。
『江戸』

 

○阿部邸・外観

 

○同・子供部屋
子供が布団に寝ている。
可愛い寝顔。
その脇に阿部と妻・謐子。
暮の挨拶に来ている慶永と斉彬。
慶永「医者はなんと」
謐子「流行病だから直に治るはずと」
斉彬「・・・、伊勢殿、蘭方医にかかったらどうかね。漢方医とはまた違った知見が得られると思うが」
阿部「・・・、薬の飲み合わせが悪くなっても困る故・・・」
斉彬「・・・」

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【898】第7話 A2 『赤松小三郎』≫

○寺・境内(夜)
通夜が行われている。
『江川家』の提灯。
多くの人が弔問に訪れている。
『安政2年(西暦1855年)1月16日』
焼香をしている人々。

 

○同・縁側(夜)
忠優、川路らが通夜料理の鮨を食べている。
忠優「江川が逝ったか。54歳・・・、まだまだ働いてもらいたかったぞ・・・」
川路「台場に反射炉建設、造船技術向上に爆裂弾開発と余りに激務でしたからな」
忠優「思えば江川にも貴様にも初めて会ったのは崋山を通してだったな」
川路「はい。崋山先生主催の尚歯会でした。先生や高野長英に続き、江川も。大事な人がみないなくなってしまわれる。象山も松代で蟄居の身。高島先生は健在だが西洋技術習得の今後が心配です」
御猪口を前に3つ置き、杯を掲げ、日本酒をくいっっと飲み干す忠優。
川路「・・・」
川路も杯を掲げくいっと飲み干す。

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【899】第7話 A3 『1ドル=1分』≫

○勘定奉行・御用部屋
石河と井上が、水野を迎えている。
水野「新年、おめでとうございます」
井上は深々と平伏している。
石河「謹賀新年。どうだ、水野。勘定奉行は慣れたか」
水野「御奉行、慣れるも何も年末の24日に辞令を頂いてまだ幾日も経っておりませぬ」
石河「はは、そうか。態度が大きいのでもう慣れたのかと思ったわい」
水野、苦笑する。
石河「まぁ、ともかく昨年はよくやってくれたな。エゲレスと和親条約締結とは御前もたいへん褒めておったぞ」
水野「ロシアもよくまとめましたな。プチャーチンなど安政地震の大津波で軍艦を失ったというのにこの日本で船を一から作って本国に帰ろうというのだから、大した傑物です」
石河「日本人が西洋船の構造を知るいい機会だ。そうそう、先に文書の件だが」
水野「はい」
水野、懐より一分銀貨とメキシコドル銀貨を出す。
石河「我が国の一分銀と西洋の洋銀であるな」
水野「はい。ペルリとの日米和親条約下田協約にて通貨交換比率を一分銀と洋銀一ドル銀貨とで1対1で交換すると取り決めました」
みな、頷く。
水野「先日まで赴任していた長崎で判明したのですが、実は一分銀貨は1ドル銀貨の3倍の価値があるのです」
井上「・・・、それはどういうことです?」

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