映画ドラマ脚本
【940】第9話 C4 『幼き心の傷』≫
○江戸城・大奥
荒れ果てた部屋。
障子が破かれ、ふすまには穴が開き、おられているものもある。
置物などの装飾品も軒並み壊されている。
それを横目に見ながら、女中に案内される忠固。
忠固「・・・」
さすがの忠固も何事かという表情。
○同・応接間
ここの間もボロボロである。
そこに待ち受けている女性が背を向けて座っている。
引きちぎられた掛け軸を見て悲しんでいる。
忠固、下座に着き平伏する。
忠固「お久しぶりにございます。御台様」
忠固の方に向き直る篤姫。
篤姫「伊賀殿・・・、お呼び立てしてすまぬ・・・」
忠固「これはいったい・・・」
篤姫、悲しげな顔で
篤姫「わらわもどうしたらいいのか考えたのじゃ。誰が、誰だったら救ってくれるのかと」
忠固「・・・」
篤姫「阿部殿が亡くなり、それに伴い御側衆の本郷もいなくなった。堀田殿では埒が明かず・・・。そんな時に老中に戻ってこられた貴方様。貴方様なら上様のお力になって頂けるものと」
忠固「では、やはりこれは上様が・・・」
頷く篤姫。
【941】第9話 D1 『床下の細工』≫
○江戸・愛宕山
ハリスら上府の一行が東京港区芝にある愛宕山を上っている。
『安政4年(西暦1857年)10月14日』
頂上に着き籠から出てくるハリスら。
『愛宕山』
ハリス「ようやく着いたか」
ヒュースケン「ここですな、江戸の街を一望できる所というのは」
歩きだし展望場所から眼下を見る。
ハリスら「おお」
ハリスら驚愕する。
見渡す限り広がる江戸の街。
ハリス「こ、これが・・・」
ヒュースケン「は、端が見えない・・・。これならたしかに百万人が住んでいるかもしれない」
ハリス「これが江戸か」
にやりとするハリス。
【942】第9話 D2 『ハリス、謁見』≫
○江戸城・門外
ハリスの登城の行列が門を入っていく。
N「安政4年(西暦1857年)10月21日、ハリスは将軍家定と謁見するために江戸城に登城した」
平伏して迎える侍の中には憎しみの色を表す者も多い。
そして何か合図をする者。
合図をもとに忍びが動く。
○床下
床の下にいた口上役、背後から口をふさがれ毒を盛られて倒れる。
○謁見の間
広々とした間。
中央にレッドカーペットが敷かれている。
上座の一段高くなっている最奥に家定が椅子に座っている。
歩み寄るハリス、家定を前に直立する。
国書を堀田に渡し、それを受け取る堀田。
ハリスが英語で口上を述べる。
それに続き、ヒュースケンがオランダ語を、通辞が日本語で翻訳する。
米国側の口上が終わり、しばらく間。
家定、足をどんと踏み鳴らす。
しかし、何の反応もない。
家定「?」
忠固「?」
床下では、口上役が倒れている。
おかしいという表情の家定と忠固。
もう一度どんと踏み鳴らす。
何の反応もない。
家定「・・・」
【943】第9話 D3 『変死』≫
○謁見の間・床下
床下が空けられ、口上役が倒れている。
水野の指揮で忍びが二人、部屋をくまなく調べている。
忍び、死んだ声役の爪の先から何か見つける。
忍び「お奉行」
それを見て険しい顔の水野。
○大目付の部屋
水野が井戸に報告している。
井戸「なに?、突発死でなく他殺だと申すか」
水野「はい。わずかながら争った跡があり・・・」
井戸「で、ではいったい誰が何の目的で、と申すか」
水野「そこまではまだ・・・」
井戸、考え込む。
水野「滅多なことは申せませぬが・・・」
井戸「申してみよ」
【944】第9話 D4 『堀田の妙案』≫
○堀田邸・外観
○同・庭園
美しい庭園。
池に満月が映っている。
ハリスとヒュースケン、堀田と忠固、井上や岩瀬が宴をかこっている。
ハリス「蒸気機関の出現、特にそれを備えた蒸気船の運航によって、各国の距離は縮まり、その往復は頻繁となり、貿易が以前とは比類にならないほど盛んとなったのです。いまや以前の風を頼りの帆船時代とは一変した世界になっています。日本は好むと好まざるとに係らず、鎖国を続けることは困難です。開国して貿易を始めれば関税収入が得られます。そうしたフリー貿易、資源開発・輸出入を活発に行えば、日本は莫大な利益を上げることになることは疑いのないことなのです」
聞き入っている井上と岩瀬。
うんうんうなずいている堀田。
外の満月を見ながら思いにふけっている忠固。
みなの表情には確信に満ちている。
ハリス「私の使命は、あらゆる点で友好的なものであること。私は一切の威嚇を用いないこと。プレジデントはただ、日本の迫っている危難を知らせて、それらの危難を回避することができるようにするとともに、日本を繁栄、強力、幸福の国にするところの方法を指示するものである」
一同「・・・」
ハリス「英仏艦隊はチャイナとの戦争が終われば、日本に来航するだろう。彼らは首都北京に迫り、奴隷のような条約を結ばせようとしています。日本来航時の使節には香港総督ボウリングが内定しています。ボウリングや領事官パークスなどにかかれば、日本人など未開人であり売買対象の奴隷くらいにしか思っていません。彼らは主要な貿易の要衝、喜望峰ケープタウン、インド・カルカッタ、シンガポール、香港、上海と次々と支配下に置いています。次の支配地はどこだか知っておりますか?」
顔色が変わる一同。
堀田「それは日本ですな」
ぎろっと一同をにらむハリス。
ハリス「正直に申し上げて、、、日本などどうでもよい」
【945】第10話 A1 『ハーグ』≫
○オランダ・ハーグ
ハーグの港。
『オランダ・ハーグ』
停泊する船に『ペニンシュラ&オリエンタル社』の文字。
運河や街並みの中にオランダ国旗が見える。
『西暦1854年(安政元年)11月20日』
到着した定期船から乗客たちと共に下船するペリー(60)。
男と従者2名がペリーを出迎える。
男はオーガスト・ベルモント(41)。
ベルモント「遠路お疲れ様でした、御父上」
手を差し出すベルモント。
ペリー「わざわざ出迎えてくれて痛み入りますな、オーガスト」
握手し肩を抱き合う両者。
ベルモント「おめでとうございます、日本との和親条約締結。ビットル提督以下誰もがなしえなかったこと、歴史的快挙ですな」
ペリー「ありがとう。少々疲れたよ。これを以て軍を引退する届を出したところだ。ところで、キャロラインは元気か」
ベルモント「ふふ、貴方の娘は元気どころか、毎日私は怒鳴られていますよ。なにかスポーツでもやらせようかと思ってまして」
ペリー「結構結構。早いものだ、結婚してもう5年か」
再会を喜んだあと、馬車に乗り込む二人。
街中を走り去っていく馬車。
【946】第10話 A2 『交渉開始』≫
○蕃書調所・外観
安政4年(西暦1857年)12月4日』
○同・内
井上・岩瀬とハリス・ヒュースケンが会談している。
お互いに、書状を確認している。
ハリス「結構。井上殿と岩瀬殿が条約交渉の全権大使ということ、確認した。これでようやく正式な交渉に入れるな」
岩瀬「では、互いに全権の委任状の照合を終えたので、これから条約交渉に入ることとします。ついては、通商条約の基本としてはオランダ・ロシアとの和親追加条約の線で取り決めたいと思っております。すなわち、開港場は長崎・下田・函館とし、その地に交易場を設け、内外人とも品物を持ち寄り、互いに入札して取引する方法を取る、ということでござる」
ハリス「・・・」
ハリス、パイプに火をつけ、大きく吹かす。
ハリス、ヒュースケンに顔で指示。
その指示に基づいてヒュースケンがオランダ語で書かれた書類を出す。
ハリス「こちらで条約の草案を作ってきた。和訳し、よく検討しておいてもらいたい」
渡された草案をパラパラとめくる岩瀬。
ハリス「日米和親条約第9条による最恵国条項により、オランダ・ロシアに与えられている権利は既にアメリカも有している。岩瀬の話したことは既に協議する必要はない」
岩瀬・井上「・・・」
【947】第10話 A3 『徳川慶喜』≫
○増上寺・境内
やぶさめが行われている。
堀田と慶永が隣の席で話し合っている。
慶永「ハリスめはまだ蕃書調所におるのですかな」
堀田「はい」
慶永「何故です。もう上様との謁見は終わった。もはや用はなかろう。とっとと下田に帰らせるべきだ。いや、母国に帰らせるべきであろう」
堀田「・・・」
交渉が始まったことは言わない。
堀田「慶永殿、ほら、始まりますぞ」
慶永「おお、次は慶喜殿か」
馬に颯爽をまたがっている一橋慶喜(20)
警戒に馬を走らせ、見事に的を射抜く。
慶永「お見事」
堀田「おお」
こともなげに平然としている慶喜の顔。
慶永「いやぁ、本当に素晴らしい。やはり次の上様は慶喜殿しかあるまい」
堀田、またかの顔。
他の者が続いてやぶさめを行っている。
次々と射抜かれる的。
慶喜、堀田の前に慶喜が現れる。
慶永「慶喜殿、お疲れ様でござった」
堀田「見事でございましたな」
無表情の慶喜。
慶喜「いえ、それほどでも。あれしき当然のことなれば」
慶永「ほっほっほ。それは頼もしい。ところで慶喜殿、堀田殿が貴殿に非常に興味を持たれていての。御父君とそなたとの考え方が違うと聞いて、ぜひ話を伺いたいそうだ」
堀田「慶喜殿は、水戸学である尊王攘夷の思想ではないと伺ったが」
無表情の慶喜。
慶喜「若干二十歳の私の考えなど聞いても何の意味もないと思われますが」
【948】第10話 A4 『篤姫』≫
○江戸城・外観
江戸城の奥深くまで進み大奥が現れる。
○同・大奥・風呂場
湯船につかっている女性。
その傍らに膝まづいている幾島(43)。
幾島「篤姫様」
湯船から出て椅子に座る篤姫。
幾島「御父上様から密書が届いております」
篤姫「薩摩の御父上から…。でなんと?」
幾島「ご御継嗣の件、急ぐようにと…」
篤姫「や、やはり来たか…。やらねばならぬな、なんとしても」
篤姫、決意の表情。
○同・同・応接間
煙管をふかしている年寄・瀧山(39)。
面会している直弼。
瀧山「は?ご存じなかったと?」
直弼「篤姫様が一橋擁立の動きを・・・」
滝山「あきれますな。では一橋派の京工作は」
直弼「む・・・、どんな工作です?」
滝山「堀田首座が通商条約締結の勅許をもらう際に、合わせて御継嗣の勅命を出させようと」
直弼、思わず腰を上げる。
直弼「なんだと!み、帝が一橋を御継嗣に推す勅命とな。なんたる事を。確かに、鷹司家に近い水戸と近衛家に近い薩摩がしきりに動き回っておるようだが」
瀧山「大奥の地獄耳、この瀧山に知らぬことはございません。如何されるおつもりか」
直弼「許さん。そもそも帝に政の報告すること自体、水戸が勝手に始めたこと。ぐぬぬ」
妖艶に直弼に話す滝山。
滝山「ですが掃部守様、これは逆に好都合ではございませぬか」
直弼「?」
滝山「このようにすればよいのです」
滝山が直弼の耳元でささやく。
滝山「ふふふ。京都守護役の井伊家ならそんなこと造作もないこと」
直弼「な、なるほど。さすが滝山殿。そうとなったら一刻も早く長野に指示を。御免」
そそくさと出ていく直弼。
不敵な笑みを見せる滝山。
【949】第10話 B1 『勅許』≫
○江戸城・外観
声「勅許?」
○同・財務部屋
書類がうずたかく生まれた部屋。
書類にうずもれる中、作業をしている忠固。
水野と岩瀬が報告に来ている。
忠固「なんだ、それは」
岩瀬「勅許とは帝の許可を得ることにございまして・・・」
ぎろっとみる忠固。
岩瀬「すいません。そういうことではないですね。堀田様に条約交渉の報告をしたところ、条約批准するにあたって帝の許可をもらう、そしてそれは堀田様が自ら京に行かれる、とのお話でした」
忠固、失望の顔でため息。
忠固「・・・」
水野、その思いを思い分って
水野「御前があれだけ時間の無駄だとおっしゃったのに、とうとう決めてしまわれたか。自ら行くので文句なかろう、という意思表示でしょうか」
忠固「交渉もこれから正念場というのに、早くも後の心配をしているというのか、まったく。で、あの人はどのようにせよ、と言うのか」
岩瀬「京での手続き・往復を入れて2か月はかかりましょう。その間、調印は待ってもらいます。京へは私も随伴し御説明せよ、とのことにございます」
忠固「にかげ・・・」
忠固、阿部の刀をぎゅっと握りしめる。
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