開国の父 老中・松平忠固

映画ドラマ脚本

【950】第10話 B2 『京』≫

○京都・全景
京都の風景。
本願寺の五重塔が見える。

 

○近衛家・外観
『近衛邸』

 

○同・内
西郷が近衛忠煕、僧・月照、女官・村岡と会っている。
近衛が書状を読んでいる。
近衛「次の将軍さんを一橋慶喜さんにするよう勅命を出す・・・」
西郷「はい。堀田老中首座自ら京に参られるとのことにございまする」
月照「だが、堀田さんが京に参られるのは異国との条約締結の勅許を得ること、と聞いておりますが」
西郷「はい。それを隠れ蓑にすることで将軍家継嗣の内勅降下は目立たないものとなりまする。却って好都合かと」
村岡「篤姫さんはいかがお過ごしでっしゃろ。大奥での運動はうまくいっておられるでしょうか」
西郷、顔が曇り
西郷「大奥の状況は良くないようです。篤姫様はお元気でいらっしゃいますが、運動以前に御老公の評判があまりに悪く、その息子たる慶喜様擁立などと口にも出せぬご様子」
村岡「それはおいたわしや・・・」
近衛「よし、分かった。九条関白様にはワシの方で早速会いに行こう」

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【951】第10話 B3 『そろばん』≫

○蕃書調所・内
岩瀬、井上がハリス、ヒュースケンと交渉している。
岩瀬「次に、最大の焦点である関税であるが、輸入税・輸出税ともに一割二分五厘でいかがか」
ハリス「輸出には通常関税は掛けませぬぞ。輸出に関税をかけるということは、日本国民の産業に重荷を課し、商人にとっても迷惑で、密貿易の取り締まりに多大な経費を要し、国家の収入に益することがありませぬ」
岩瀬、迷いなく
岩瀬「輸出税を掛けないとするならばそれに見合う財源を確保する必要がある。輸入税を上澄みせねばなるまい。2割でどうか」
ヒュースケンと話すハリス。
ハリス「20%・・・」
岩瀬「一般品目は2割とする、ただし、ハリス殿が求めるように食料・建材・漁具など一部品目については五分程度にしてよい」
ヒュースケンがハリスに
ヒュースケン「税率20%は欧米諸国と同レベルの関税率になりますが」
考えているハリス。
そろばんはないが、そろばんをはじいている動作をしている井上。
岩瀬に指示を出す。
岩瀬「食品を五分にする一方、酒類は高くしたい。三割五分でいかがか」
ハリス、ヒュースケンと相談。
ハリス「ところで、井上殿は何をやっているのか」
井上の手真似をしながら
井上「そろばんでござる」
後ろの筆記人からそろばんを出す。
ハリス「これで計算を・・・。この道具がなくてできるのか」
井上「はい」
ヒュースケンが口笛を吹く。
ヒュースケン「マジシャンか、お主らは」
難しい交渉の中に笑いが漏れる。

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【952】第10話 B4 『勝鬨』≫

○勘定方
勘定方数十人が座っている。
上座で演説する忠固。
忠固「一月十二日の第14回交渉を持って、交渉は妥結した。関税は輸入税が一般品目にて二割、酒類三割五分、食糧・建材・漁具が五分となった」
一同、歓声。
『おお、やったな』『さすが井上だ』『いや岩瀬殿はさすが昌平こう史上最高の頭脳と言われるだけはある』などの声。
忠固「喜ぶのはまだ早い。開港地であるが、長崎・函館と残り一港は神奈川となった。アメリカ側が執拗に求めた大坂開港は断固拒否し、認められた」
『おお』の声。
忠固「これによって海外との交易はすべて関東で管理できる。それはつまり商いの中心が関西から関東に移ることを意味する。公儀が完全に復活、いや、家康公当時より強化された江戸幕府が、ここに誕生する!」
一同、静まり返って、感動している。
官吏A「エイ、エイ、オォ」
と勝鬨を上げる。
勘定方全員による『エイエイオー』と繰り返される勝鬨。
目的達成した充実感で満ちている一同。
誇らしげな忠固。

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【953】第10話 C1 『山吹菓子』≫

○京・全景

 

○九条邸・外観

 

○同・内
堀田が九条に挨拶している。
堀田「できましたら早々にメリケンとの通商条約の勅許を頂きたく、よろしく取り計らいお願いする次第で。詳しくはこちらに控える川路と岩瀬にご説明させます」
岩瀬「交渉の全権を任されておりまする岩瀬にございます。交渉は基本合意に至っており、この条約を締結することで我が国には交易による富が得られ、異国に対する武力も・・・」
退屈そうな九条。
九条「ああ、詳しいことは御所で話されよ。政のことを言われてもわらわはよく分からん。だが勅許は簡単ではないぞよ。帝が反対されてるでな」
堀田、川路に指示。
川路、後ろを向き指示を出す。
運び込まれる千両箱。
一つ、二つ、三つ・・・。
一つ運ばれるごとに九条の顔がほころぶ。
九つ、十、10箱運ばれる。
九条「(い、1万両・・・)」

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【954】第10話 C2 『関白と太閤』≫

○料亭(夜)
鴨川沿いの料亭。
川床で西郷と左内が飲んでいる。
左内「老中首座が関白様・太閤様に接触したようですな。鼻薬が効いて関白様も条約了承に傾いているとか。無理もないかもしれませぬな。なにせ鼻薬は一万両との噂」
西郷「一万両・・・」
左内「我らに近い近衛家・三条家ならともかく、やはり九条家・鷹司家は思い通りにはなりませぬな」
西郷「・・・。将軍継嗣の方はいかがでごわすか」
左内「工作は見当たりません。南紀派と目されるのは、紀州、溜間筆頭・彦根、堀田・首座、次席・伊賀守だが」
西郷「やはり鍵は堀田殿。堀田殿を一橋擁立に傾かせる方策、それはやはり条約を利用するがよかろう」
左内「どのように?」
西郷「今回、条約の勅許は下ろさない。勅許を下ろすには水戸の力が必要だ。水戸に頼めば勅許が降りる、そういう状況を作り出す」

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【955】第10話 C3 『廷臣八十八卿列参事件』≫

○京都御所・庭(朝)
門から公家たちが続々と押し寄せている。
周りの官吏たちも驚きの表情でそれを眺めている。
公家たちの総数は88名。
先頭には岩倉が立っている。
その騒ぎに、思わず表に出てくる一条関白。
一条「な、なにごとじゃ」
88人が座り込み
岩倉「一条関白様に申し上げます。帝のみ心はこの神州を夷狄よりお守りすること。古から続くそのお役目を果たすことにございまする。ぜひとも帝のお気持ちを汲み取り、異国との条約の勅許は出さないよう、お願い申し上げます」
一条「な、なんたること。貴殿らここをどこと心得る、御所ぞ。こんなことは前代未聞ぞ。いったいどうなっておるのか」
公家A「神州の一大事に黙ってはおられません」
公家B「断固反対。攘夷せよ」
公家C「関白は金で魂をお売りなされたのか」
がやがや大混乱となる。
九条、ひーと言いながら逃げる。
岩倉、ニヤリとする。

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【956】第10話 C4 『もう一つの勅許』≫

○御所・玉座
帝に謁見している堀田。
玉座手前には関白と太閤。
にらみ合う九条と鷹司。
帝「今回の騒動、まさに前代未聞じゃ。このような混乱が起きた以上、条約勅許を下ろすことはとてもできぬ」
堀田「な、なんですって」
九条を見る堀田。
目をそらす九条。
くくくと笑う鷹司。
かっとなる九条。
九条「鷹司太閤はん、何を笑われるか。卿の元来の主張であった開国が拒否されたのじゃ。そなたの意見が否定されたのであるぞ。卿の汚点じゃ」
鷹司「くくく、知らぬは九条関白ばかりなり。関白さんこそが勅許容認を主張されたではないですか。臣は帝の意をくみ、始めから勅許反対を主張しておじゃりました」
九条「ぬ、なな、なんと。よくもまぁ、節操のない」
帝、また呆れて
帝「やめよ」
堀田「・・・」

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【957】第10話 D1 『井戸覚弘、死去』≫

○江戸・通り(夜)
井戸覚弘が歩いている。
井戸「む」
井戸の気配を感じる目。
手裏剣が飛んでくる。
居合抜きでそれらの手裏剣を弾く。
静かに現れる数名の忍者、井戸に切りかかる。
が、それらをいなす井戸。
井戸を倒せぬと悟った忍者、退却を始める。
井戸「待て」
去っていく忍者と入れ替わりに飛んでくる吹き矢。
それを手で受け止める井戸。
井戸「・・・」
去っていく忍者を見る井戸の手からは鮮血がしたたり落ちている。

 

○忠固の屋敷・外観
忠固の声「井戸が死んだ?」

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【958】第10話 D2 『大老進言』≫

○江戸城・外観
『安政5年(西暦1858年)4月21日』

 

○同・謁見の間
堀田が家定に謁見している。
家定は例の如く豆を煎っている。
堀田「上様、堀田、昨日京より戻りましてございます」
家定、豆を味わいながら
家定「京の味はどうであった?薄味のようでいてしっかりダシが効いておろう。はっはっは」
堀田「は、はい・・・」
手拭いで汗をぬぐう堀田。
堀田「勅許についてははっきりとは下りませんでした。やはり公家方は異国の状況にうといゆえ・・・」
キッと堀田を睨む鋭い目。
しかしすぐにその色は消えて
家定「わしはどうもあの味が苦手でのぉ。つい江戸の味にしとうなってしまう」
堀田「・・・」
堀田、思案したのち、意を決して
堀田「上様、本日は京の報告の他に、もう一つ上奏したき儀がござりまする」
家定「なんじゃ、今度は京の水の話か?」
堀田「松平越前守慶永様を大老に据えたく、上申させて頂きます」
家定「・・・」

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【959】第10話 D3 『決断』≫

○江戸城・勘定部屋
忠固、水野、石河、川路が作業をしている。
そこに報告に来る井上。
井上「今、堀田殿が上様に謁見いたしまして・・・」
石河「老中首座を辞任されたか。上様のこと、次席の伊賀がやれ、と早くも申されたか?」
井上「それが・・・、越前守慶永様をた、大老に推挙した、とのこと・・・」
忠固「!」
石河「!」
水野「!」
川路「・・・」
冷静な石河が立ち上がって激昂。
石河「な、なんだと。慶永様が大老??、呆けたか、備中」
水野「ま、まさに青天の霹靂。自分の失態は棚に上げ、越前様を大老にして保身に走ったか。それにしてもこれはひどい」
川路「・・・」
忠固「川路、いったいどういうことだ、これは」
川路、苦渋の表情で
川路「今回、条約勅許は得られませんでした。ですが、それ以上に京では、将軍継嗣問題の工作が暗躍してまして・・・。私や岩瀬、そして堀田様もほとほとそれに振り回されまして。勅許を得るにはまず継嗣問題を片づけなければ始まらない、そう堀田様は判断されたのだと思います」
石河「上様継嗣をだしに、などと何たるデタラメ、なんという体たらく。堀田殿がまず辞めるべきであろう」
水野「いや、堀田殿の進退などどうでもよい。条約締結はどうなるのだ。もう交渉は妥結しているのだ。後は調印を待つのみだぞ。どうなのです、川路殿」
川路「条約の内容は・・・、全く議論にはなっておりません。というよりお話さえしておりません。岩瀬など部屋に入ることさえ許されませんでした。身分が低いという理由で・・・」
三人「・・・」
呆れかえってものが言えない。

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