映画ドラマ脚本
【980】第12話 A4 『快挙達成』≫
○品川沖
旗艦フュリアス号、レトリビューション号、リー号と快速船からなるイギリス艦隊が品川沖に停泊している。
『7月18日』
○イギリス旗艦フュリアス・外観
声「貴殿らが会ったのか」
○同・応接室
5人とイギリス一行が会談している。
水野「はい。私とこちらの永井とでスターリング提督と会い、日英和親条約を締結しました」
永井「懐かしいです。もう4年前になりますか。その後、私は海軍を任されまして。ようやく蒸気船も操縦できるようになったところです」
エルギン卿「そうか。貴殿らがスターリング提督と・・・。だからボウリング卿のこととかいろいろ詳しいのじゃな」
岩瀬「私とこちらの井上がハリス殿と日米修好通商条約を締結しました」
オリファント「なるほど。岩瀬殿なら条約締結も納得です。井上殿は開港場の下田責任者・・・。堀殿は何をされているのです?」
堀、西洋式の要塞の図面を見せる。
堀「私は函館奉行としてこちらの要塞を以てして、北方防衛を担当しています。ロシアのプチャーチン提督とも交渉しました」
オリファントとエルギン卿が要塞の図面を見て顔を見合わせる。
エルギン卿「・・・」
オリファントがひそひそと話しかける。
オリファント「いかがしますか、日本側の条約案ですが。交渉はわずか3回しかしておりませんが」
エルギン卿「さしあたりアメリカにスタンドプレーをさせねばよい。条約内容はアメリカと同等であるなら問題なかろう。わざわざ長く居座っても無益だ」
エルギン卿、立ち上がって手を差し伸べる。
エルギン卿「日英修好通商条約案はこれで結構だ。この後調印しよう」
5人「おお」
水野、立ち上がりエルギン卿と握手する。
【981】第12話 B1 『開港前夜』≫
○江戸湾内
進む米国船。
『安政6年(西暦1859年)6月1日』
船にはアメリカ国旗。
○アメリカ艦船・外観
声「横浜?」
○同・甲板
ハリスと副領事ドールが話している。
ドール「神奈川じゃないのですか?」
ハリス「そうだ、条約に神奈川と明記されているにも関わらず、開港地は横浜だというのだ、一方的にな」
ドール「どういう魂胆なのでしょう」
ハリス「横浜は山や川に囲まれた僻地だ。しかも東海道ロードや神奈川シティから離れた寒村、何もない場所だ。つまり日本は江戸の開港地も長崎の出島のように隔離しよう、という考えなのだろう」
ドール「それはひどい」
ハリス「さらに困ったことがある。岩瀬と井上がいなくなったのだ。非常にやりにくくなった」
ドール「どういうことでしょう。方針が変わったのでしょうか」
ハリス「分からん・・・」
【982】第12話 B2 『横浜開港』≫
○横浜沖
進む米国船、湾を抜け横浜沖に入っていく。
向こうから見えてきた港。
大きな桟橋が2本。
大きな税関の建物を中心に向かって右側には巨大な町が出来上がっている。
左側は広大な空き地。
ハリス「おお」
驚くハリス。
副領事のドール
ハリス「こ、これは」
ドール「何を驚いているのです」
ハリス「ド、ドール君、わずか3か月前には何もなかったのだ、この横浜とは何もない寒村だったのだ・・・、夢か幻か。いったいどんな魔法を使ったというのか・・・」
『横浜』
ドール「オリエンタルマジック、東洋の神秘というやつですか」
横浜港を見つめる二人。
○横浜・全景
造成されたばかりの横浜港。
そこだけが周囲の自然あふれる風景とは異なり、近代的な雰囲気を醸し出している。
『安政6年(西暦1859年7月1日)6月2日』
来航している船が5隻見える。
N「安政6年(西暦1859年7月1日)6月2日、横浜が開港した。ここに何もない寒村であった横浜の地に日本最大の国際都市が誕生した瞬間だった。この日、アメリカ公使に昇格したハリスとイギリス総領事オールコックが入港した。また商船ではアメリカの副領事E・M・ドールが代理人を務めるオーガスチン・ハード商会のワンダラー号176トンが民間商船の横浜入港第一号となった」
【983】第12話 B3 『出発』≫
○神楽殿
五角形をしている神楽殿。
ろうそくの火が揺れる薄暗い部屋の中で、巫女三人が神楽を舞っている。
神秘的であり、妖艶な剣舞の舞。
その美しさは見るものを恍惚とさせる。
舞っている巫女は、忠固の正室・三千と少女のような雰囲気の2人。
やがて2人が下がっていき、三千一人が舞い始める。
巫女が見る視線の先。
その先に座る忠固。
巫女の舞を見ている。
巫女が舞い終えると、その前に歩み出る忠固。
忠固「三千」
忠固、三千と向かい合って座る。
忠固「行こうと思う」
三千「・・・」
忠固「どうだ」
三千、哀しそうな顔で
三千「行ってはなりません」
忠固「・・・」
三千「今生の別れとなります」
忠固「・・・。そうか」
見つめあう二人。
忠固「だが行かねばならぬ。それが男子というもの・・・」
ポロリと三千の頬を伝う一筋の涙。
忠固「この家を・・・、子供たちを頼む」
三千「はい・・・」
忠固、三千を励まそうと微笑みながら
忠固「帰ってこないとは限らん。お主もよく言っているではないか。予知は人の意志の力で常に変わり得ると」
三千、少し微笑む。
忠固「これが本当に最後だ。もし戻れたら本当に引退する。そうしたら一緒に上田に帰ろう」
見つめ合う二人。
忠固、三千を残し神楽殿を後にする。
三千「・・・」
忠固の後姿をいつまでも目で追う三千。
【984】第12話 B4 『二朱銀の衝撃』≫
○横浜・両替所
天秤。
ドル銀貨と二朱銀貨が秤に乗っている。
ドル一枚と二朱銀貨2枚で釣り合っている。
オールコックはじめとする英国一行、二朱銀貨を眺めながら
オールコック「確かに、一ドルと二朱銀貨2枚、つまり一分が同重量なのを確認した」
○横浜・日本人商店街
両替所から出てきた一行、新しい商店街の街並みに繰り出す。
商店に並ぶ商品を見ながら、オールコックが指示をする。
オールコック「何か買ってみるか」
ある小物屋でサトウが小物を取り、店主にハウマッチなどと話しかける。
店主、言葉は分からないが、だいたいを察して
店主「へぇ、これは6分でさぁ」
指を6本突き出す。
サトウ「6分ということは、1ドルは3分だから2ドルだな」
2ドルを渡すが、店主は首を横に振る。
サトウ「なるほど、洋銀は受け取らないというわけか」
ヴァイス「長崎と同じだな」
役人が先ほど交換した銀貨を取り出した。
サトウ「交換した銀貨は1ドルイコール3分で2枚だったので、6分だったら4枚だ」
と二朱銀を4枚渡す。
また首を横に振る店主。
両手で、4、4とあと8寄こせと促す。
サトウ「なにぃ、あと8枚寄こせだと、ふざけんな、ぼったくりもいい加減にしろ」
【985】第12話 C1 『巨額取引』≫
○横浜・通り
建設中の横浜。
西洋商館街がだいぶ出来上がり、建設資材や大工や人足達が忙しそうに動いて活気に満ちている。
堀が図面を片手に大工に指示をしている。
声「だいぶできてきておるな」
その声に振り向く堀。
立っているのは忠固。
堀「こ、これは伊賀守様。いつこちらに」
忠固「ついたばかりじゃ。向こうが異人街じゃな」
建設中の英一番館。
威風堂々のたたずまい。
堀「伊賀様は洋館は初めてでござりますかな。やはり我が国の建築とは全く違います。豪華というか威風堂々といいますか」
忠固「ふふふ。それにしてもよくもあんな建物が作れたな」
堀「見て下さい」
筆談をしている中国人と日本人。
中国人が日本人に指示している。
堀「エゲレス人が香港より唐人を連れてきて作らせているのです。ですが、あれを建てているのは日本人です。鹿島の岩吉と申しましたか。大した腕前です」
英一番館、米一番館。
忠固「ほう」
堀「ジャーディンマセソンの英一番館、ウォルシュホール商会の「米一」も岩吉が手掛けております」
【986】第12話 C2 『屏風の水野』≫
○芝・愛宕真福寺
会見場に、ハリスと脇坂が対峙している。
脇坂の後ろには屏風があり、そこに水野が控えている。
テーブルにバラバラっと貨幣を並べるハリス。
ハリス「なんですかなこれは。この新二朱銀というものは、あきらかなる陰謀ですな。ドルの価値を三分の一に貶める巧みで、姑息な所業です。即刻中止してもらいたい」
脇坂、手拭いで汗をを拭きながら
脇坂「ですから、書状にも書いた通り、メリケンと日本の銀貨の価値が違うのです。一分銀は紙幣のような通貨でござりますれば・・・」
ハリス「それだ、それはいったいどういうことなのかね。まったく理解に苦しむ。納得いくように説明してくれんかね」
脇坂「・・・」
答えられずおろおろする脇坂、ゴホンと咳払いをする。
屏風の裏の水野が小声で話す。
水野「この一分銀、重さで計ればドルの三分の一の重さです」
脇坂「この一分銀、重さで計ればドルの三分の一の重さです」
水野「その理屈でいえば、確かにハリス殿の申される通り、1ドルは一分銀3枚分と等分ということになります」
脇坂「その理屈でいえば、確かにハリス殿の申される通り、1ドルは一分銀3枚分と等分ということになります」
水野「しかしながら、日本の一分銀は実質価値の3倍の価値があるのです。3倍の価値で流通させているのです」
脇坂「しかしながら、日本の一分銀は実質価値の3倍の価値があるのです。3倍の価値で流通させているのです」
水野「日本は金本位制を採用しています。銀貨は刻印を打って通用させている金貨の代用貨幣です」
脇坂「日本は金本位制を採用しています。銀貨は刻印を打って通用させている金貨の代用貨幣です」
水野「実質でなく額面で流通させている、すなわち紙の通貨と同じ形で使っており、紙幣のような通貨とはそういう意味でござる」
脇坂「実質でなく額面で流通させている、すなわち紙の通貨と同じ形で使っており、紙幣のような通貨とはそういう意味でござる」
ハリス「ばかな、そんなことができるはずがない。それではいくらでも価値を落とした粗悪な通貨、偽の通貨がはびこるではないか」
水野「それがはびこらないのでござる」
脇坂「それがはびこらないのでござる」
ハリス「なぜだ」
【987】第12話 C3 『フリーメーソン』≫
○イギリス軍艦・外観(夜)
影の声「金本位制だと!?」
○同・暗い部屋(夜)
暗い一室。
誰だかわからない男が座っている。
その男に報告している形のケズウィック。
ケズウィック「はい。確かに日本の役人がそう言いました」
影の男「・・・」
ケズウィック「いかがいたしましょう」
影の男「うむ。その男、油断がならぬ。いや、この国の政府が油断ならぬのか・・・」
ケズウィック「その役人の上の大臣は全く分かってないようでした」
影の男「ふむ。とにかくその二朱銀とかいう通貨は即座に廃止するよう徹底的に要求するのだ。そして、そのミズノとかいう男は罷免するよう大臣に強硬に圧力をかけよ。オールコックにもそう伝える」
【988】第12話 C4 『商談成立』≫
○横浜
洋館が急ピッチで作られている。
○中居屋・外観
○同・応接室
撰之助とデント商会代理人で日本人の波松が商談している。
並松は洋服を着ている。
声「いらっしゃいました」
撰之助「お通ししろ」
忠固ら4名が入ってくる。
忠固、待っているのが音吉でないのに気付く。
忠固「・・・」
緊張して思わず立ち上がる並松。
撰之助「波松さん、こちらが前老中の松平伊賀守様です」
前に進み出る忠固。
日本人の和服に対して、自分の着ている洋服をちらりと見る波松。
御手打ちにされるのかとたじろぐ。
やはり元は日本人なのでガタガタと足が震えだし、今にも平伏しそうになる。
並松「・・・、も、申し訳・・・」
そこへ差し出される手。
並松「!」
忠固「そなたらの挨拶であろう。松平忠固である」
忠固、柔らかく微笑む。
波松、ぼろっと涙が流れ、忠固の手に握手する。
ぶわっと泣き出し、両膝をつき、すすり泣く。
忠固「そちも音吉と同じで苦労したようじゃな」
忠固、波松の肩に手をかける。
すすり泣く波松。
【989】第12話 D1 『安政の大獄』≫
○水戸藩邸・内
『安政6年(西暦1859年)8月27日』
斉昭が上意を通達されている。
使い「藩主・水戸慶篤を差控、中納言・斉昭は国許永蟄居、家老・安島帯刀は切腹を申し渡す」
わなわなと打ち震えている水戸藩一同。
平伏していない。
斉昭「ぐ、ぐぬぬ」
斉昭が握りしめる指から血がにじんでいる。
○江戸城・小広間
『同日』
同じように通達を受ける岩瀬、永井、川路。
使い「岩瀬肥後守忠震、永井玄蕃頭尚志を職禄没収の上差控、川路左衛門少尉聖謨を御役罷免の上隠居差控を申し渡す」
驚く永井。
永井「そ、そんな・・・」
川路「・・・」
冷静に受け止める川路。
岩瀬「・・・」
使いを睨み、復讐に燃える岩瀬の目。
○横浜・運上所
『翌28日』
同じように通達を受ける水野。
使い「水野筑後守忠徳を外国奉行罷免とする」
水野「ば、ばかな・・・」
唖然とする水野。
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