映画ドラマ脚本
【990】第12話 D2 『その時』≫
○萩・松下村塾・内
『萩』
うららかな日差しの中に佇む小屋。
吉田松陰と桂小五郎(26)が座っている。
桂「上田候?あんなの異国に我が皇国を売り渡した大奸物の張本人ではないですか」
松陰「いや、違うのだ。あの御方は象山先生を放免しようとしているし、そもそも私が密航で死罪になるところを減刑して下さったのもあの御方なのだ。あの方は違う、違うのだよ、桂君」
全く納得していない桂。
○街道
帰途についている忠固一行。
物思いにふけっている忠固。
声「デモクラシー?」
○中居屋(夜)回想
忠固と撰之助、小三郎が話している。
小三郎「有力な大名・見識ある家老や旗本を代表とする上院と一般の民の中から特質すべき有能なるもので構成される下院によって上下二つの議会を設置し、法を決定するのです」
キラキラと輝く小三郎の顔。
小三郎「それは君が主の政治ではなく、民が主の政治。つまり民主政治です」
忠固「民主政治・・・」
夜の月を眺めている忠固。
○街道
馬に乗っている忠固。
忠固「君主制から民主制へ・・・か。まさかそんな時代が来るとはのぉ・・・。どうする!?阿部殿、引き金を引いたのは阿部殿かな、我かな。ふふふ」
ひとり微笑んでいる忠固。
杉林に囲まれた街道筋を歩く忠固、剛介ら一行。
忠固「むっ」
一行の前から出現する15人程度の武士。
後ろからも同様の武士達が迫ってくる。
一行、一瞬にして高まる緊張感。
忠固「・・・」
バッと馬から降りる忠固。
忠固の一行、臨戦態勢となる。
ジャキっと大剣を抜く剛介。
剛介「殿・・・。八木剛介、この日の為に生きて参りました。いざ出陣いたす」
忠固に一礼し、ゆっくり敵に向かっていく。
斬り合いが始まる。
快晴の空を仰ぐ忠固、阿部の刀をまじまじと見つめ、ゆっくりと抜刀する。
忠固「ふふふ。死ぬにはいい日だ」
精悍な顔。
『安政6年(1959年)9月4日松平伊賀守忠固死去。9月5日隠居・家督相続届。12日病死届』
【991】第12話 D3 『エンドロール』≫
○太平洋
荒波の中進むポーハタン号と咸臨丸。
『同年2月井上清直、外国奉行罷免。10月7日橋本佐内、処刑。10月27日吉田松陰、処刑。11月中居屋、営業停止処分。12月石河政平、切腹』
N『日米修好通商条約締結時に設定した20%の一般関税は、7年後の慶応2年インド・清国と同じ一律5%に改定され不平等条約と言われるようになる』
○岩瀬邸
門には二人見張りが立っている。
庭にたたずむ岩瀬、悔しそうな表情。
○サンフランシスコ港
サンフランシスコ港に入港する咸臨丸とポーハタン号。
『翌年3月3日桜田門外の変にて井伊直弼暗殺、3月8日咸臨丸サンフランシスコ到着』
大勢の出迎えの人々。
紙吹雪のなか大歓迎される勝海舟や福沢諭吉ら幕府一行。
【992】第12話 D4 『エピローグ』≫
○岩瀬邸
蟄居中の岩瀬、さみしそうに空を見上げる。
何かを思い出し、ふっと笑みがこぼれる。
忠固の声「メリケンに行くだと!?」
○(回想)御殿山
桜の咲く御殿山から英国軍艦やお台場の砲台が見える。
岩瀬が忠固に報告している。
忠固の横には、井戸と石河。
岩瀬の後ろには、水野・井上・永井・堀。
岩瀬「はい。日米修好通商条約の批准書を交換する為に咸臨丸でサンフランシスコに渡り、それからワシントンに行き、メリケン国プレジデントと謁見します」
忠固、むむっとなりしばし考えた後
忠固「だめだ」
岩瀬「え?」
にやりとする忠固。
忠固「プレジゼントとは我が会う。お主は副使じゃ」
ははは、と笑い合う一同。
桜咲く御殿山の向こうに富士山が輝く
『日本を開国させた男/日米和親・修好通商条約締結物語』
完
【993】『日本を開国させた男/日米和親・修好通商条約締結物語』人物表≫
人物表
松平伊賀守忠優(39)老中・上田藩主・忠固に改名
阿部伊勢守正弘(33)老中首座
牧野忠雅(54)老中・阿部を補佐
松平乗全(58)老中・忠優を補佐
井戸覚弘(47)長崎奉行・忠優側近
石河政平(49)勘定奉行・忠優側近
マシュー・ペリー(59)米国艦隊司令
徳川斉昭(60)水戸御老公・一橋派
松平慶永(30)越前藩主・一橋派
井伊直弼(38)彦根藩主・南紀派
徳川家定(30)第13代将軍
本郷泰固(50)将軍側役・阿部派
堀田正睦(51)阿部の後の老中首座
水野忠徳(42)外国奉行・忠優派
井上清直(46)外国奉行・忠優派
岩瀬忠震(38)外国奉行・阿部派
佐久間象山(42)松代藩士・忠優派
吉田松陰(30)象山の弟子
長野主膳(42)彦根藩家臣
三千(28)忠優正室
八木剛介(44)上田藩士
ハリス(53)アメリカ領事
島津斉彬(51)薩摩藩主・一橋派
篤姫(24)将軍家定夫人・斉彬の娘
滝山(39)大奥年寄・紀州派
孝明帝(27)第百二十一代天皇
九条尚忠(60)現関白
鷹司政通(63)太閤・前関白
中居屋重兵衛(38)真田出身商人
中居屋重右衛門(39)上田出身商人
ケズウィック(30)英国商人
ハーバー(41)英国商人
波松(35)英国企業代理人
【995】『日本を開国させた男/日米和親・修好通商条約締結物語』映画版 プロローグ≫
〇 日本列島(朝)
ライジングサンが日本列島を照らす。
〇 江戸湾(朝)
朝日がキラキラと反射する水面。
鮮やかな緑の山の稜線と美しい海岸線。
湾内に見える一艘の和船。
湾奥に進むにつれて、和船の数が爆発的に増えていく。
〇 久里浜沖(朝)
岬を抜けると、巨大な千石船が現れる。
千石船に映る巨大な影。
その奥には千石船の20倍もの大きさの黒船が出現する。
停泊している4隻の黒船。
黒船の周りを数え切れない和船が埋め尽くしている。
〇 軍艦サスケハンナ・甲板
水兵達が大砲など所定の位置に就き、戦闘配備している。
静けさの中こだまする2発の発砲音。
2本の煙が上がっているのが見える。
〇 同・艦橋
副官が後ろを振り向く。
副官「アドミラル・ペリー」
パイプを持つマシュー・ペリー(59)、窓ごしに煙を見る。
ペリー「狼煙・・・か」
〇 同・甲板
ガシャン、ガシャンと金属音。
次々と鎖が投げ入れられ、そのうちの幾つかが手すりに引っかかり始める。
投げ入れた鎖を次々と登り始める忍者の群れ。
混乱しつつも、鎖を外したり、サーベル、ピストルを見せつけてけん制する水兵達。
〇 同・艦橋
副官がペリーに指示を仰ぐ。
副官「このままでは侵入を許します、発砲許可を」
ペリー「だめだ、発砲はするな」
副官「ですが」
〇 同・甲板
忍者の投げたロープで海に転落する水兵。
煙幕と共に忍者の群れが甲板に上がる。
ペリー・副官「!」
水兵達が一斉にライフルを構える。
副官「アドミラル!」
パンパンという発砲音。
ペリー・副官「!!」
音と共に煙幕の中に消えていく忍者達。
ペリー・副官「・・・」
『アイキャンスピークダッチ』の声と共に仏語の横断幕を掲げた和船が近づいてくるのが見える。
〇 江戸城・外観
荘厳な城郭。
〇 同・老中部屋・内
『阿蘭陀風説書』『外国事情書』等の書物、世界地図等がうずたかく積まれている。
阿部伊勢守正弘(33)、牧野忠雅(54)松平乗全(58)が報告を受けている。
乗全「観音崎‐富津岬間の打ち沈め線外で食い止めたか」
牧野「4隻のうち2隻は黒煙を吐いておると…、蒸気船というやつですな、阿部殿」
阿部「パタヴィアの別段風説書、オランダ商館長クルシウスの申した通りとなったな。乗全殿、伊賀守殿は?」
乗全「伊賀殿?。知りませぬ」
牧野「この一大事にどこに…」
〇 崖の上
三頭の騎馬が黒船艦隊を見下ろしている。
騎馬の後ろには複数の付き人達。
望遠鏡を覗く佐久間象山(42)。
象山「蒸気船の長さは40間。大砲の数は左のコルベットは24門、右は28門、中央の蒸気船は12門、艦隊全体で60門余り。乗員は2千名と推定されまする」
左右に騎馬に乗る石河政平(49)と井戸覚弘(47)。
井戸「で、でかい…、我が国最大の千石船の20倍か。拙者が長崎奉行時代に相手したプレブル号と比べても5倍はある…」
石河「船内で火を燃やして外輪を回す…。噂は真であったか。それにしても伊賀守様、大丈夫ですか」
中央の馬上に松平伊賀守忠優(39)。
忠優「何がだ」
石河「いえ、阿部様に御了解を取らずにここまで来てしまって」
忠優「フッ、何を言っておる、石河。心配すべきはこの国の行方。我の地位ではあるまい。貴様も初めてか、井戸」
井戸「長崎でも噂だけで。まさかこれ程とは」
石河「勘定奉行として、断じて戦はせぬべきかと」
忠優「旗印はエゲレスでなくメリケン国…。そしてやはり発砲せぬ…。ふふふ、天は我らに味方せり。行くぞ。象山、ご苦労」
忠優を先頭に馬を走らせる三名。
男の声「あの御方はどなたじゃろう」
象山「ん?」
象山が振り向くと、付き人の一人、坂本龍馬(19)。
象山「お前ごときには教えられん」
龍馬「何を言っちゅう。土佐の田舎者に教えたところで先生の威光は曇らんきに」
象山「それもそうじゃ。あの方は我が旧真田上田藩主にして御老中、松平伊賀守様じゃ」
龍馬「御老中!」
象山「うむ。そしてわしはあの方の・・・、友じゃ」
龍馬「えー、象山先生はそんなに偉いのか」
象山「そうじゃ。もっとわしを尊敬せい」
颯爽と馬を走らせる忠優ら。
その先に浮かぶ黒船艦隊。
タイトル『日本を開国させた男/日米和親・修好通商条約締結物語』
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